何事も「基本」ができていなければ、上達もないし発展もありえません。
「基本」とは「判断・行動・方法などのよりどころとなる大もと。基礎」と国語辞典には記されています。「基本」を用いた熟語には「基本給」「基本財産」「基本的人権」「基本法」「基本単位」「基本ソフト」等々があり、要は「もと」となるものです。
ゴルフはグリップ、アドレス、ボールポジション、スイング、野球はキャッチボール、素振り、サッカーはリフティング、書道では筆法などが基本といえるでしょう。当然のことながら「基本」ができていないと「応用」が利きません。
倫理法人会活動の基本としては各種の活動マニュアルがあります。「経営者モーニングセミナーマニュアル」にはまず、「経営者モーニングセミナーの意義」が記されています。
「自らが自己革新を図り、企業と家庭の健全な繁栄と地域社会の発展、ひいては日本創生に貢献するリーダーを育成するために、
一、純粋倫理の学習・実践の場
二、朝型の生活習慣を体得する場
三、異業種交流・情報交換
と意義・目的が示されています。
また、純粋倫理を学ぶ「基本テキスト」は『万人幸福の栞』です。倫理法人会組織の基本単位は「正倫理法人会」が百社以上、「準倫理法人会」は五十社以上です。
こうした基本ができているか否かで、発展・成長などに差異が出てくるのです。
建築物も同様です。基礎がいいかげんな場合、建築物が高くなればなるほど傾きが大きくなります。基礎が脆弱だと、上屋が大きくなればなるほど崩れやすくなります。つまり「基本」や「基礎」とその上にあるものは同体だということができます。
建築物の傾きで有名なのは、イタリアのピサ市にある大聖堂・通称「ピサの斜塔」です。傾きの原因は地盤の土質が不均質であったということです。南側の土質が柔らかく、年月を経るうちに南側への重量負担が大きくなって傾き始めました。
その傾きを食い止めるために一九三五年より工事が始まり、二〇〇八年に地質学者より倒れる危険が回避されたとの見解が出されたそうです。その期間は何と七十年もかかったのです。
どんなに立派な建築物であっても、「基礎」が強固でないと崩壊してしまいます。また、傾き始めたらその速度は増すばかりで、改善・修復には膨大な労力が必要となるのです。
企業、家庭、社会、国家、組織活動の営みも、「基本」や「基礎」が最も重要な要素です。そして言うまでもなく、人間社会の健全な発展・繁栄の基本は「倫理」だと考えられるでしょう。
この基本ができているかどうかをチェックし、強固な基礎を築いて、さらなる発展を目指そうではありませんか。
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物を愛する人は「長者」に通ずる
私たちは、服、食べ物、乗り物など、多くの物に支えられています。そして、それらは欲望の対象となってきました。素敵な服を着たい、美味しい物が食べたい、良い車に乗りたい等、豊かな暮らしは多くの人が望むところでしょう。
しかし人は、物に恵まれたいと考えながらも、いざ与えられるとそれらをぞんざいに扱ってしまうことがあります。古い書類の溜まった引き出し、散乱した机の上、埃をかぶった棚などです。このような生活では、せっかく物に恵まれていても、じきに壊れる、早くに失くしてしまうなど、物を生かすことはできません。
逆に日頃から整理を心がけ、物を大切に扱えば、長持ちをし、安易に失くすこともありません。物を大切にする人は、物からも大切にされるのです。
さて、日本には古くからの民話が数多く遺されています。それらが先人の体験的学習により生まれたであろうことを考えると、今読んでもなお、現代生活に対する教訓を得ます。以下に紹介するのは、愛知県日間賀島(ひまかじま)に伝わる「かしき長者」という昔話す。
で昔あるところに、一人の信心深い「かしき」(漁船の炊事係)がいました。かしきは「どんな食べ物でも、神様から授かったものだから粗末にしてはならない」と母親から教えられていた為、食べ残しも無駄にせず、魚に与えていました。
そんなある日のこと、かしきがいつものように魚に食べ残しをあげていると、突然、海が見渡す限りの砂浜に変わりました。かしきはそれを見て「これは良い鍋の磨き砂が手に入った」と、大喜びで桶一杯に砂をつめ、船へと持ち帰ったのです。そして翌朝、桶を見ると、その砂が金に変わっていました。
こうしてそのかしきは立派な長者となり、島の人たちは「これまでの善行のごほうびに海の神様が与えたものだ」といって、「かと呼び親しんだそうです。
しき長者」▽
この昔話のように、日本には神の助けにより長者になった話が多くあります。それら幸運に恵まれる主人公に共通しているのは、私利私欲にとらわれず、物を大切にしているという点です。
丸山敏雄は『純粋倫理原論』の中で、「倫理より見る物の本質」を四つ挙げ、それと共に物に対する心構えを記しています。
①物は「天与のもの」である。
人は物の加工はできても、無からは作り出すことはできない。ゆえに物を自分の物とせず、物を自分勝手にすべきではない。
②物は生きている。
物にも心がある。ゆえに物に対しても、人と接するように真心を込めて接する。
③物は生活の反射鏡。
物の盛衰は、心の盈虚と同じ調子に現われる。ゆえに、環境・周囲に苦難が現われたときは、自分の心・生活を反省する。
④四囲の物質は、人を生かし、守り、正しい方向を示し、苦難を脱却せんと不断の努力を続けている。
ゆえに商品が売れず、製品が堆積しようと、また一物も無くなって明日から食う物に困ろうと、心朗らかに、ただ正しい働きを続けていれば、きっと事情は好転する。
事業が行き詰まった時には、まずは感謝の心で物を大切にし、職場を朗らかな心で清掃してみてはいかがでしょう。
MSのリハーサルで自己革新を図ろう
現在、全国には690の「単位倫理法人会(単会)」が存在します。その単会の活動のひとつとして、週一回の経営者モーニングセミナー(МS)があります。各単会が「経営者モーニングセミナーマニュアル」に則って開催しているのです。このマニュアルの中で、MSの意義が次のように示されています。
自らが自己革新を図り、企業と家庭の健全な繁栄と地域社会の発展、ひいては日本創生に貢献するリーダーを育成するために、
1.純粋倫理の学習の場・実践の場
2.朝型の生活習慣を体得する
場3.異業交流・情報交換の場
種として、
1.週1回(曜日を決めて)
2.原則として朝6時からの1時間
3.経営者およびそれに準ずる人を対象
として行ないます。
経営者が集まって学び場として実行していく意義が明記されています。この意義をしっかりと浸透させるためには、MSという場の雰囲気づくりが非常に大切です。
MSを進めるには、「参加をした経営者が元気あふれる場になる」という全体の意識が必要です。「癒されて元気になる場」ではなく、参加者が「元気を出して元気になる場」になることが、MSが求められる雰囲気といえるでしょう。
それにはまず、役職者が参加者を明るく迎えることが必要です。その準備のひとつが役員朝礼です。役員朝礼は開始30分前に行ないますが、さらに加えて言えば、МS本番の元気で活気ある雰囲気づくりにはリハーサルも不可欠です。
役員朝礼は各単会で実施されていますが、リハーサルはまだ行なわれていない会も多いようです。しかしリハーサルこそが、活力あるMSのポイントになります。
MSマニュアルには「進行、朝の挨拶リーダー、誓いの言葉リーダーの張りのある声、キビキビとした所作によって、会場に凛とした活力をつくること。各係は上着・ネクタイ着用を原則とする(女性はそれに準ずる服装)」とあります。それらの最終チェックを各担当者が徹底するのです。
役員朝礼開始の15分前からリハーサルを始めるといいでしょう。私たちの倫理法人会は、「実行によって直ちに正しさが証明される純粋倫理を基底に、経営者の自己革新をはかる」とあります。リハーサルも自己革新をはかる絶好のチャンスなのです。
進行担当は持てる力を元気な声に代え、朝の挨拶の担当は明るい表情で参加者全員を包む張りのある声を出し、誓いの言葉の担当は「今日一日元気にやるぞ」という気合いの入った声を出しましょう。各担当のパワーを集結することによって、元気と活気と活力のあるMSを開催するのです。
人間は、幸せだから明るい心・朗らかな心になっていきます。私たち倫理法人会員は、更にその一歩先をめざし、「常に明るい心・朗らかな心でいるから幸せのほうが舞い込んでくる」と学んでいます。
MSの活性化を通して純粋倫理の醍醐味を体得し、一人でも多くの経営者の参加を呼びかけていきましょう。
社会に与える利益が事業発展の源泉なり
世のすべての企業には、創業・開業といった「はじめ」があります。
「初心忘るべからず」といいますが、これは室町初期の能楽師・謡曲作者である世阿弥の遺訓です。当初は「能楽を習い始めた頃の、未熟さや至らなさを忘れてはならない」という意味で伝えられていたようです。いつしか、それが転じて「何事も始めた頃の志や決意を忘れてはならない」と解されるようになりました。いずれにしても「物事を始めた時の気持ちを忘れるな」ということです。
創業・開業の動機は「自分の技術や能力を活かしたい」「世の中の役に立とう」というポジティブなものから、「ただ何となく」「他に職がないので仕方なく」「ひと儲けして金持ちになる」「社長の肩書が欲しい」「有名になりたい」まで様々でしょう。
動機は各人各様であっても、そこから導かれた社長の意識が「経営理念」となります。それは目的・目標とも直結し、その後の企業価値や商品価値など、企業活動全般に関わってくるといっても過言ではありません。これは後継者が事業を引き継いだ際も同様です。
パナソニック電工の創業者・松下幸之助は「商売というものは単なる売り買いではなく賢明な奉仕であり、そこによき心が通い合わなければならない。社会のため、人々のために奉仕・貢献するのでなければ、事業を大きくする必要はない」と言い遺しています。
本田技研工業の創業者・本田宗一郎は「自分が儲けたいのなら、まず人に利益を与えることを考えよ。そのあとに、そのオコボレをもらう。これが経営の本質でなければならない」と語り、社会に利益を与えることが企業存続の価値であると説きました。
「大切なのは、いつも自分のことを主にして考え、自分の利益だけに重点を置くという生活をしないことだ。自分に五割の利益があれば、相手にも五割の利を考えてやるとか、自分よりもむしろ相手の立場を尊重して、しかも厳然と処置するとか、要は自分以上に相手のためを思うという愛情を決断の根拠にすることである」(『倫理経営原点』第十三章「事業・商売の心得」より)
事業発展のキーワードと共通点は「利他」にあります。そして原理原則は「発顕還元」です。発したものは必ず返るという「振り子の法則」です。振り子は右に振れただけ左に振れます。手前に寄せただけ、逆に前方への力が働きます。問題は力を入れる方向性と順序です。まず人のため、お客様のためにと押し出す。するとこちらに返ってくる。事業の目的は社会のニーズに応えること。応えた分だけ利益として還元されるのが、原理・原則に適った社会のシステムであるべきです。
ただし、現実はそうなっていないところに問題があるのです。問題は二つ。ひとつは自社の問題です。企業として「利他」が実践されているかどうか。自社の問題は経営者の問題です。いかなる創業・開業の動機であっても、経営者自らが目的を「利他」に昇華させることが重要です。もうひとつは社会システムの問題です。倫理法人会は「日本創生」を旗印に倫理経営を多くの企業に浸透させることを目指しています。その活動は「利他」にあり、そして自社に還元されるものなのです。
朝礼を活用して希望の灯となろう
職場で行なわれる朝礼を、倫理法人会では活力朝礼と称して推進しています。「企業の縮図」といわれる朝礼には、社風あるいは会社の質が色濃く反映されているものです。また、朝礼をよりよくすることによって、それらを磨き高めていけるものです。
その内容や時間は、職場によって様々ですが狙いはおおよそ以下の5点に集約できるでしょう。
①仕事に向かう心身を整える
プロは何より「成果」が求められます。その成果をあげていくための土台となる心と体のスイッチをオンにします。
②情報の共有化と徹底を図る
共に働く仲間と共有しておかなければならない情報を伝え、職場全体の今日一日の動きを掌握します。その中で自身がどのように動くことがよりよい成果につながるかを確認します。
③企業の目的・理念を確認浸透する
わが社は何のために存在するのか、何を目指して働くのかを確認します。
④基本動作を習得し、個々の資質を磨く
姿勢、挨拶、返事という三つの基本動作を行なうことで、マナーや接客応対の技術を磨き、さらに気力を充実させて人間力の向上を図り、組織活性化につなげます。
⑤チームワークの向上
朝礼の中での発声や動作を全員がピタリと合わせることで気をそろえます。また『職場の教養』によって、よりよいモラルや価値観を共有することで、健全なチームワークの向上を図ります。
▽
経営環境の善し悪しにかかわらず、人材の育成、組織の活性化は中小企業の経営者にとって大きなテーマでしょう。活力朝礼はそれを実現する道具といえます。
そしてその道具をよりよく活用していくために不可欠なのが、企業の目的を示した経営理念に他なりません。理念なき企業やそれが形骸化してしまった組織は、一時的に繁栄することはあっても、継続することは難しいでしょう。
ソニー創業者の一人である井深大氏は、戦後、荒廃した中で起業する際に示した設立趣意書には、「日本の再建に向けての活動」等の会社設立の目的が記されています。企業が健全に繁栄するためには、しかるべき理念が必要なのです。活力朝礼においても、経営理念があることによって、人材育成や社風醸成の方向性が明確に定まるでしょうし、朝礼という道具を自由自在に活用していくことが出来るのです。
よりよい活力朝礼の土台には、経営理念の理解が必要です。先に示した三番目のポイントにもあるように、その経営理念を組織の中にしっかり浸透させる有効な場が活力朝礼でもあるのです。
混迷の時代にあって、企業経営は様々なリスクに備えなくてはなりません。平時においては、活発な企業活動を通じて更なる社会貢献を目指し、非常時には組織が一丸となって難局を乗り越えていかなくてはなりません。
組織の要たる経営者自らが実践に磨きをかけ、率先垂範力を発揮しつつ、活力朝礼という道具を活用する。そして組織を構成する個々人の力を磨き高め、強靭でしなやかな組織作りを推進して、混沌とした現代を強く照らす灯となろうではありませんか。