寝ると決めたらすぐに寝る

人生の成功者や勝利者は、気づきやひらめき、直感を大切にしているといわれます。
何かに気づいた時に、それをどう捉えて、行動に移し、人生に活かしていくか。
三つのポイントから考えてみましょう。 
まず第一に、同じ状況においても、「気づく」人と「気づけない人」がいます。
例えば、朝出勤すると、自社の駐車場に空き缶が転がっていたとします。
このことに、まず気づくでしょうか。気づかなければそれまでです。
日頃から、社員が気持ちよく働ける環境づくりに意識を向けていなくては、
〈空き缶が落ちている〉という気づきもやってきません。
次に、気づいた時の心の向け方、行動の仕方です。
空き缶が落ちていることに気づいた時、〈汚いなあ、こんなところに捨てた奴は誰だ〉
と不機嫌になる人もいるでしょう。また、誰が捨てたのかはわからないけれど、
サッと空き缶を拾って、ゴミ箱に運ぶ人もいるでしょう。要は、気づいたことを気軽に、
喜んで行動に移せるかどうかです。
倫理経営の実践において、とりわけ重要なのが、こうした「気づいたらすぐする」
即行の実践です。しかし、一口に即行といっても抽象的で、
取り組むことがなかなか難しいものです。空き缶の例のような事柄は、
それこそ日常にたくさんあるでしょう。 
そこで第三のポイント、具体的な実践としてお勧めしたいのが、朝起きの実践です。
目が覚めたらサッと起きることです。
目覚めもまた、気づきにほかなりません。中には「朝は苦手だ」という人もいるでしょう。
「朝起きが苦手」という方は総じて、就寝前はもとより、
日常の様々な場面においてサッと切り上げられずに、ズルズルと無駄な時間を過ごしてしまう人が多いようです。
即行と同じように「即止」は大切です。日々の生活を振り返って、
やめたほうがいいと思いながらやめられず、惰性でダラダラ続けていることはないでしょうか。
長話を切り上げられず、時間だけが浪費されていく。深酒は次の日にこたえるとわかっていても、誘われるままに二次会、三次会へ流されていく。
就寝前のネットサーフィンをやめようと思いながら、やめられない。
こうしたことは、誰にも思いあたるでしょう。
 そこで、気づきを磨く実践としてお勧めしたいのが、「即止の実践」としての就寝です。
一日の終わりに、就寝は誰にも必ず訪れます。テレビや電気をつけたままで、
いつの間にか眠ってしまうのではなく、寝ると決めたらサッと寝ることです。
「明日は何時に起きる」とハッキリ決めたら、今日の後悔や明日の心配にグズグズとらわれず、
すぐに休むことです。
 よい就寝は、目が覚めたらサッと起きる「朝起きの実践」につながります。
気づいたらすぐする「即行即止」を磨き高めることで、心のわだかまりがなくなり、
深い洞察力と直観力が冴え、物事が好転してくるのです。
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「即行即止」を心がけます。

建設会社で働いているAさんは、数カ所の現場を受け持っています。
どの現場にも、様々な業者が出入りしています。
とあるビル建築の現場に入った際、一緒に仕事をする業者の中にどうしても苦手な人がいました。
 その人はいつも仏頂面でした。表情が険しく、口を開けば嫌味を言います。
何度か顔を合わせても、〈ちょっと嫌なタイプだな〉という第一印象は拭えません。
一度苦手だなと思うと、することすべてが気になって、イライラは募るばかりでした。
それでも、自分から挨拶をするように心がけていたAさん。社長からいつも
「挨拶は人間関係の基本。どこにいっても明るく爽やかに挨拶するように」
と教えられていたからです。
また、休憩時間には缶コーヒーを持って話しかけ、打ち解けようと努力をするのですが、
状況は変わらないままでした。
このままでは、肝心の仕事にも支障をきたしてしまいます。
何とか関係を良くしたいと思ったAさんは、次のように考えました。
〈この人はずっとこうだったんだ。今さら変わるわけがない。ならば、そのままを受け入れよう〉
そう考えると、吹っ切れたように心が軽くなったのです。
これまで、缶コーヒーを差し入れていたのも、〈相手に取り入りたい〉という心からでした。
苦手意識はあるものの、〈相手に自分のことを好きになってほしい〉というのが本心でした。
それが、〈この人はこのままでいい。仏頂面も個性なんだ〉と考えると、
顔を合わせることが苦痛ではなくなったのです。気軽に会話ができ、自然に笑顔がこぼれました。すると、相手も笑顔を返してくれたのです。
 相手をありのまま受け入れようと思った時、これだけ状況が変わるのかとAさんは驚きました。その後は苦手意識もなくなり、スムーズに仕事が進むようになりました。
やがて、別の現場でも、その人から指名が入るほどの信頼関係が生まれたのです。
人と人が対面する場においては、言葉以外にも、表情や視線、姿勢、
動作など様々な要素が組み合わさって、コミュニケーションが取れます。
表向きは笑顔で接していても、心の中では〈何となく嫌だな〉〈苦手だな〉
と感じていることは誰にでもあるでしょう。
そのような心は、どこかに表われてしまうものです。心と身体はひとつながりだからです。
人間関係でうまくいかない時、その根本には、相手を避ける気持ちが潜んでいるかもしれません。たとえ「好き」にはなれなくても「嫌わない」こと、
「相手をそのまま受け入れる心持ち」を人間関係の根幹に据えたいものです。
最後に、倫理運動の創始者・丸山敏雄の言葉を引用して、今月のテーマを締めくくりましょう。
  明るい心が、身体を健康にし、家庭を明朗にし、まわりを楽しくし、仕事を順調にする。
心が先であり、心がすべてである。
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松下幸之助翁の
「鳴かぬならそれもまたよしほととぎす」
に通ずる気かあしました。
自然体で相手を受け入れます。

お金は妥協を好まない

A氏がある企業で、営業を担当していた時の出来事です。
担当となって、初めての集金日が訪れました。
得意先へ出向くと、その日は土曜日だったこともあり、先方は不在でした。
午後、再び足を運びましたが、工場のシャッターは閉まったままです。
結局、その日は集金できないままでした。
週が明けた月曜日、会社に出勤し、一昨日の集金の件を社長に報告しました。
「先方には土曜日に二度、訪問したのですが、不在で未集金となってしまいました」
「集金に伺うことを前日、お客様に確認したのかい?」
「いえ、お客様には連絡をしていませんでした」
そう答えながら、A氏は心の中で、〈集金とはいえ、たかだか二万円だから、
わざわざ電話して、土曜に行く必要もなかっただろう。今日また出直せばいい〉
と考えていました。これが実は大きな間違いだったのです。
世には、報酬を要求し、金銭を請求するのを賤しい事のように思う人がある。
取るべき金を取り、請求すべき金銭を妥協なく要求することは、
何らはずべきことでないばかりでなく、かえって、生活にはっきりと筋道を立てる所似である。
(丸山敏雄著『万人幸福の栞』)
A氏はその後、社長から厳重注意を受けました。
そして、「お金の請求に妥協して失敗した例は多い」と、
社長自身が以前経営していた会社で、苦い経験をしたことを聞いたのです。
 それは、集金日に手形を受け取ることができず、期日を相手の都合で引き延ばされたあげく、
最終的には不渡りを出されてしまったという体験でした。結局、その未回収金が尾を引いて、
社長は会社を畳んだのです。その後、相手の会社も、倒産してしまったとのことでした。
「長いおつきあいだから…と、曖昧に妥協してしまったことが、結果的に自分の首をしめた。
そればかりか、相手をも不幸にしてしまった」と語る社長。
妥協がいかに多くの不幸を招くかと身をもって体験しているだけに、新人のA氏を、
強く叱ったのでした。
 翌月からA氏は、前日に連絡をした上で、約束の日に必ず訪問するようにしました。
ほとんどのお客様から、期日にきちんと集金できるようになりました。
そして、金銭のやりとり以外の面でも、互いの信頼関係を深めていくことができたのです。
 二宮尊徳翁は「積小為大(せきしょういだい)」という言葉を遺しています。
「塵も積もれば山となる」というたとえの通り、信頼という大きな財産は、小さなこと、
つまり日頃の約束を守ることなしには得られないのです。
「たかが2万円」「明後日でもいいか」という〝小さな〟妥協は、
その相手をも粗末に扱うことにつながります。大小にかかわらず妥協なく請求する時、
すなわち金銭を大切に扱う時、金銭はその愛情に応え、
生き生きと本来の性質を持って働いてくれるのです。

定期券紛失の注意信号

倫理経営では、物や金銭はそれを扱う人の思いが反映するという見方をします。
Mさんは、そのことを体験した一人です。
Mさんが勤める会社で、大きなイベントが企画された時のこと。Mさんは、
同僚の受け持ちに倍する仕事量を任されたことに、不満を持ちながら働いていました。
すると、仕事に必要な道具を次々に失っていったのです。
最初は、携帯電話。次に数万円分の定期券。不安に駆られたMさんが倫理指導を受けたところ、「次に無くすのは何かわかりますか」と意外なことを問われました。
答えあぐねていたMさんに、指導者が一言、「このままでは仕事を失ってしまいますよ」
と指摘したのです。仕事を嫌っていることをズバリと見抜かれたのでした。
Mさんはその日から気持ちを切り替えて仕事に向かいました。
するとイベントも成功し、不思議なことに、紛失したはずの定期券が見つかったのだといいます。
「金銭は人の心に敏感に反応する」。

これが純粋倫理における金銭の捉え方です。定期券を金銭そのものと捉えた場合、
Mさんの体験は、その好例といえるでしょう。まるで、仕事を嫌がるMさんの心を、
定期券が察知して、姿をくらましたかのような体験でした。
 この事例が示す金銭の倫理は、「金銭を大切にしない人は金銭から見離される」
ということです。
これ以外に、金銭を扱う上で大切な倫理として、次の三点を挙げることができます。
①金銭を本当に大切にすることとは、正しい愛情をかけ、それを尊敬することである。
金銭を偏愛し「金の亡者」となることは、正しい愛情をかけることにはなりません。
正しく愛情をかけるには、金銭の本質と意義を知り、
それに沿って金銭を扱うことが求められます。
そこで、金銭の倫理の第二番目は次のようになります。
②金銭の本質は物その他の価値の象徴であり、流通させるところに、その意義がある。
 正しい愛情を金銭に注ぐということは、自分のために金銭を生かして使うと共に、
他の人の役に立つように流用することです。
だから、三番目に次のような金銭の倫理が成り立ちます。
③金儲けを第一にせず、社会のため、人のためを目標にして働くことを根本とする。
 この事例において、Mさんが改善したのは、仕事への取り組み方でした。
「社会のため」「人のため」どころか、不足不満一杯の心で仕事をしていたMさん。
定期券紛失の一件は、あたかも、その間違いを指摘するかのような出来事だったと
述懐しています。
 金銭に関して、常ならざることが起こった場合、それは金銭の扱い方や心の向け方、
もしくは、仕事そのものに対する注意を促す信号かもしれません。
先に示した「金銭の倫理」を一つの参考にして、
お金との関係を見直してみてはいかがでしょうか。

参考資料 丸山竹秋「金銭―その魔性と本質」月刊『倫理』一九八九年四月号
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人から人へお金は回る

ある日のモーニングセミナー終了後、Kさんは講師に、
「お金をたくさん稼ぐにはどうしたらいいですか?」と尋ねました。
講師は「金銭の性質をよく理解して、生かして使うことですよ」と答えました。
しかしKさんには、今ひとつピンときません。
再度「金銭の性質とは何ですか。生かすとはどういうことでしょう」と尋ねると、
講師は『万人幸福の栞』の八十頁を開き、次の文章を示したのです。
物をほんとうに働かすとは、使う時思いきってこれを使う事である。
ケチケチするのは、金銭を生かす事にはならぬ。大たんに、よろこんで、すぐにこれを出す。
これが生かすこと、金を働かすことである。

金銭には「流通する」性質があります。
一箇所に留まらず、人から人へ流通するのが金銭であり、そのように金銭を扱うことが、
すなわち「生かして使う」ことになります。
例えば、一人千円ずつ持った人が三人いるとします。
三人は手に持った千円を隣の人に渡していきます。もし一分間で十回転すれば、
一人一万円を受け取り(一万円の収入を得て)、
一万円を支払った(一万円分の消費をした)ことになります。 
さらにテンポよく、一分間に二十回転することができれば、
世の中にある金銭の額は同じ三千円であっても、二万円の価値交換が行なわれたことになります。(※)
こうした流通が活発であればあるほど「好景気」と呼ばれ、滞れば「不景気」と呼ばれます。
好景気とは、いわば金銭の持っている性質がより引き出された状態を指すのでしょう。
この場合のポイントは、支払いにあります。先の例で、
もし自分のところに回ってきた金銭を出し惜しみして、留めてしまえば、
循環はそこで止まってしまいます。手元におかれた金銭は、
その本来持っている性質を生かすことができず、腐ってしまいます。
「流通する」という金銭の性質を最大限に引き出すには、なるべくはやく金銭を回すこと。
そして、払うべき時は躊躇せず、「大たんに、よろこんで、すぐに」出すことです。
世の中が好景気になるのを待たずとも、好循環の流れを見つけて自ら飛び込んでいくことで、
金銭を流通させ、おのずと恵まれていくようになるのです。

Kさんは、講師の話を聞き、これまでの生活を振り返りました。
収入があれば喜び、支払日は憂鬱に過ごしていたことに気がつき、
使う時も無駄に衝動買いをして、後で悔やんでいたことに思い至りました。
その後は、金銭を生かして働かせることを誓ったKさん。
収入があることをよりいっそう感謝して受け止めると共に、支
払う時も、喜んでお金を送り出そうと心に決めたのです。
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喜んで支払うべきお金を支払い、良い循環を生みます。