『松下幸之助に学ぶ 指導者の365日』

木野 親之著
『松下幸之助に学ぶ 指導者の365日』
―この時代をいかに乗り切るか―

3月14日 「難しい事業に成功してこそ」

「難しい事業に成功してこそ、本当の経営が出来たことになる。
困難な事業を、次々とこなしてこそ、真の経営者となれるのだ」
と、厳しく叱られました。
「困難こそチャンス」
とは、時代を経ても変わらない方程式です。
「立ちはだかる高い壁を前にどうするか。兆(きざ)しに『しんにょう』
をつけて、逃げるのか。『てへん』をつけて挑むのか。
心の持ちようで、結果は180度変わる」
と、幸之助は教えてくれました。

物を愛する人は「長者」に通ずる

私たちは、服、食べ物、乗り物など、多くの物に支えられています。そして、それらは欲望の対象となってきました。素敵な服を着たい、美味しい物が食べたい、良い車に乗りたい等、豊かな暮らしは多くの人が望むところでしょう。
しかし人は、物に恵まれたいと考えながらも、いざ与えられるとそれらをぞんざいに扱ってしまうことがあります。古い書類の溜まった引き出し、散乱した机の上、埃をかぶった棚などです。このような生活では、せっかく物に恵まれていても、じきに壊れる、早くに失くしてしまうなど、物を生かすことはできません。
逆に日頃から整理を心がけ、物を大切に扱えば、長持ちをし、安易に失くすこともありません。物を大切にする人は、物からも大切にされるのです。
さて、日本には古くからの民話が数多く遺されています。それらが先人の体験的学習により生まれたであろうことを考えると、今読んでもなお、現代生活に対する教訓を得ます。以下に紹介するのは、愛知県日間賀島(ひまかじま)に伝わる「かしき長者」という昔話す。
で昔あるところに、一人の信心深い「かしき」(漁船の炊事係)がいました。かしきは「どんな食べ物でも、神様から授かったものだから粗末にしてはならない」と母親から教えられていた為、食べ残しも無駄にせず、魚に与えていました。
そんなある日のこと、かしきがいつものように魚に食べ残しをあげていると、突然、海が見渡す限りの砂浜に変わりました。かしきはそれを見て「これは良い鍋の磨き砂が手に入った」と、大喜びで桶一杯に砂をつめ、船へと持ち帰ったのです。そして翌朝、桶を見ると、その砂が金に変わっていました。
こうしてそのかしきは立派な長者となり、島の人たちは「これまでの善行のごほうびに海の神様が与えたものだ」といって、「かと呼び親しんだそうです。
しき長者」▽
この昔話のように、日本には神の助けにより長者になった話が多くあります。それら幸運に恵まれる主人公に共通しているのは、私利私欲にとらわれず、物を大切にしているという点です。
丸山敏雄は『純粋倫理原論』の中で、「倫理より見る物の本質」を四つ挙げ、それと共に物に対する心構えを記しています。
①物は「天与のもの」である。
人は物の加工はできても、無からは作り出すことはできない。ゆえに物を自分の物とせず、物を自分勝手にすべきではない。
②物は生きている。
物にも心がある。ゆえに物に対しても、人と接するように真心を込めて接する。
③物は生活の反射鏡。
物の盛衰は、心の盈虚と同じ調子に現われる。ゆえに、環境・周囲に苦難が現われたときは、自分の心・生活を反省する。
④四囲の物質は、人を生かし、守り、正しい方向を示し、苦難を脱却せんと不断の努力を続けている。
ゆえに商品が売れず、製品が堆積しようと、また一物も無くなって明日から食う物に困ろうと、心朗らかに、ただ正しい働きを続けていれば、きっと事情は好転する。
事業が行き詰まった時には、まずは感謝の心で物を大切にし、職場を朗らかな心で清掃してみてはいかがでしょう。

『松下幸之助に学ぶ 指導者の365日』

木野 親之著
『松下幸之助に学ぶ 指導者の365日』
   ―この時代をいかに乗り切るか―

3月13日  「もういっぺん考えてみるわ」
 食糧があまっているのに飢え死にする人がいて、
 金が金庫からはみ出るほどの金持ちがいるのに、
 貧困で死ぬ人がいる。
 これが、一流国の姿なのか。
 幸之助はどこかが間違えていると心を痛めていました。
 だからこそ幸之助は、
「それ、ちょっと待ってんか。もういっぺん考えてみるわ」
 と言って、いつも事業のあるべき姿を求めて経営していました。

心がけるべき事柄を明確にして生きる

産経新聞「小さな親切、大きなお世話」のコラムに、作家の曽野綾子さんが「ふだん私はできるだけ電車で外出しているのだが、(中略)精神的疲れを感じてぐったりすることがある」との一文を寄せています。内容は、電車の中での乗客の服装や化粧のことなど、ほとんど怒りに近いもので占められていました。
電車内の一部の乗客に対し、腹立たしい思いをするケースがあります。例えば、優先席付近では携帯電話の電源を切るよう協力を願うアナウンスが流れますが、優先席に座らずにすむ乗客が堂々と通話やメールをしています。一人が使えば隣の乗客がという状態です。注意をしたことによる乗客同士のトラブルも多くあります。モラルの低下が嘆かわしい状況にある日本なのです。
倫理法人会の会員企業では、倫理研究所が推奨する「活力朝礼」を導入するところが多くあります。朝礼の中で自社の目標を確認し、挨拶実習などを行なうことで、社員の資質の向上を図ります。また『職場の教養』を活用することにより、チームワークを向上させ、朝礼参加者のモラルアップを喚起する企図です。
日本全国の企業がこの活力朝礼を実施すれば、一人ひとりのモラル向上に資することができるとの思いで、倫理法人会は各地で倫理を広く紹介しているのです。経営者をはじめとする全社員が、『職場の教養』の最後にある「今日の心がけ」を社会で実行すれば、前述の腹立たしい光景も少しは減少するはずです。
「今日の心がけ」を飾り言葉や絵に描いた餅にしては、実にもったいないのです。その日の職場生活での心構えとして、その延長として今日という一日が終わるまで、「今日の心がけ」を実行する覚悟を持つならば、世の中は明るく暮らしやすいものになるでしょう。会員企業によっては「今日の心がけ」を大きな文字にして社内に掲示し、実際の行動に移すよう強調・確認しているところもあるほどです。
倫理研究所が推進する「日本創生」は、それを最上段から声高に叫んだとしても実現は困難です。倫理法人会会員企業に働く人々が、多様な「心がけ」を率先して実行することで、常識に満ち、希望にあふれる未来への道が拓けるのです。
倫理運動の創始者・丸山敏雄は、著書『万人幸福の栞』に「理屈なしに行なってください。きっと変わった結果が出てきます。実験されて、正しい事がおわかりになれば、隣人に知らせ、知人に伝えて(中略)、新しい世、喜びの世の中を生み出すことに力をあわせていただきたい」と訴えています。
また中国の儒学者・朱子は「心が正しいものになって、そののち身が修まる。身が修まって、そののち家が斉(そろ)う。家が斉って、そののち国が治まる。国が治まって、そののち天下が平らかになる」(『大学章句』)と遺しています。
物事を為すには「隗より始めよ」です。美しき日本、そして美しき日本人の構築を私たちが望むならば、まず自らを律する精神と身体を強く維持していきましょう。

『松下幸之助に学ぶ 指導者の365日』

木野 親之著
『松下幸之助に学ぶ 指導者の365日』
―この時代をいかに乗り切るか―

3月12日 「わしの無念が君にわかるか」

「こんなことで君を叱らねばならない、わ
しの無念が君にわかるか」と、涙ながらに
叱られました。
幸之助からこのように言われて叱られたの
は初めてです。
幸之助は、私と今の世で会うのは前世の縁
かもしれないと思ったのでしょう。
人との縁を大切にし、人の心と心を大切に
する人でした。
人づくりは、終世の課題です。