『松下幸之助に学ぶ 指導者の365日』

木野 親之著
『松下幸之助に学ぶ 指導者の365日』
―この時代をいかに乗り切るか―

3月9日 「金はどこまでも道具である」

金はどこまでも道具である。
道具の金に振りまわされては、人間も会社も死んでしまう。
これは松下幸之助の信念でした。

「もっと人間を大切にしなければ、この世が楽しくない。人間は、
不可能を可能にするために、生まれてきたのだから」と、言っ
ていました。

商いは何と言っても、正道を一歩一歩、誠実に歩むことが大切
なのです。

『松下幸之助に学ぶ 指導者の365日』

木野 親之著
『松下幸之助に学ぶ 指導者の365日』
―この時代をいかに乗り切るか―

3月8日 「成功を邪魔するのは自分自身だよ」

「木野君、成功を邪魔するのは自分自身だよ。人はかけがえの
ない資本だ。金は潤滑油。だから、潤滑油のために仕事をして
はならないのだ。

金を追ったら、金が逃げて行くよ。志を追え。

また、仕事は無限にある。小さいことも大事にして、何事も成功
するまで、やり抜くんだ」

「僕は頭を下げ下げやってきた」と、幸之助は、自分の心の中の
自分といつも闘っていました。

温かな理解と思いが人の心を開かせる

人はなぜ涙を流すのでしょうか。嬉しい時、悲しい時など、涙を流す状況は人によって様々ですが、揺れ動く感情によって涙を流す動物は人間だけであるといわれます。
次に紹介するのは、建設業を営むA氏とその社員との、涙にまつわる体験です。
A氏は毎年「社員の家庭訪問」に取り組んでいます。社員の家族を知って、社員のみならず家族ともコミュニケーションを取っておくことが大切であると思い、家庭訪問をスタートさせたのです。
家庭訪問を続けて数年が経過したクリスマスの夜、A氏は父子家庭の社員宅を突然に訪ねました。本来であれば事前に社員と連絡を取るのですが、その社員の家庭には小学校一年生になる一人娘がおり、A氏は三人で一緒にクリスマスを過ごそうという思いつきから、突然に訪問したのです。
玄関を開けると、奥で毛布を被って女の子が一人でテレビを見ていました。A氏は「お父さんはいますか?」と聞くと、下を向いたまま何も言いません。再度「お父さんはいますか?」の問いかけに、「お父さんは飲みに行っちゃった…」と答えたのです。
「ご飯は食べたの?」と聞くと、「食べてない」と答え、「寒いのになぜストーブをつけないの?」と聞くと、危ないからストーブはつけてはいけないと言われたとのことでした。
その言葉を聞いたA氏は、女の子の何とも寂しそうな表情を見て、涙がその場で溢れ出して止まりません。A氏はすぐに外へ飛び出し、おもちゃ屋で人形を買い、ケーキを購入して彼女の元へ走って戻りました。そして「実はお父さんから、可愛い○○ちゃんにプレゼントとケーキを渡してほしいと頼まれたんだよ」と機転を利かせました。あわせて「温かいものでも買って食べてね」と一万円を渡し、溢れる涙をこらえつつ自宅へと戻ったのです。
翌朝、朝早くに会社へ出勤すると、その社員が一番で出社していました。A氏と目が合った瞬間、気まずそうに寄ってきた社員は、昨晩のお礼を言うと共に、留守をしていた非礼を詫びたのです。
しかしA氏は「君が悪いのではなく、突然訪問した私が悪かった。君も奥さんがいないから、これまで苦しいことや辛いことが多かったんだろう。君の悩みにまったく気づかなくて申し訳なかった」と言い、昨夜のことを思い出しながら男泣きに泣いたのです。
その瞬間、社員はドッと泣き出し、身内にも話せないような自分の過去や、妻と離別した経緯と真意を、一時間にわたりA氏に吐露したのです。
その後、その社員は必死になって仕事に取り組むようになり、今では専務取締役としてA氏の右腕として元気に働いています。
純粋倫理の考え方の一つに、「涙の洗浄」という実践体験があります。倫理運動の創始者・丸山敏雄は、自身の体験を通じて「涙の洗浄を経たとき、これまで家庭生活における夫婦・親子・兄弟のまたは交友の間につもる不和も一夜に解消する」と語っています。
涙は相手を理解し思いやる心の表われです。自分のみならず、相手の人生をも劇的に変える大きな力を持つ「理解」と「思いやり」を、日頃から大切にしていきたいものです。

『松下幸之助に学ぶ 指導者の365日』

木野 親之著
『松下幸之助に学ぶ 指導者の365日』
―この時代をいかに乗り切るか―

3月7日 「事業は無理したらアカン」

「事業は、無理したらアカン。また、人に借りをつくってはアカン。
人様には貸しをつくりなさい。
ギブ・アンド・テイクというが、僕は、これまでギブ・ギブ・ギブでやってきたよ。
だから後悔しないですんだ」

経営の極意は、「自然に従う」ことから始まるのです。
理に叶う念いをもってこそすべては成功します。

固定概念を捨て純粋な学びを求める

倫理法人会は、全国を七つの方面に分割
しています。倫理研究所法人局の研究員が
それぞれに方面担当として管轄し、運営の
指導にあたる体制をとっています。
A研究員もその一人として、方面内の役
員会への出席や幹部研修、モーニングセミ
ナーの講師として出向く毎日です。そのA
研究員が、ある倫理法人会のモーニングセ
ミナーに赴いた時のことです。
通常、役員は集合した後、開始三十分前
から、お迎えの体制を整える「役員朝礼」
を実施します。モーニングセミナーをより
良い学びの場とするために実施する、言わ
ば「事前準備」の一環です。
ところが、この倫理法人会では以前より、
役員は一時間以上前から集まり、会場の設
営を済ませて、セミナー開始一時間前から
「役員朝礼のリハーサル」を行なっている
のです。役員朝礼が「事前準備」であるな
らば、「事前準備の準備」を行なっているこ
とになります。
この日も通例に倣い、「役員朝礼のリハー
サル」が実施されました。その中で挨拶実
習を担当するリーダーが、マニュアルに記
載されている通りのリードができず、先輩
の役員に何度となく指摘を受けました。そ
の場で修正をしつつも、本番に向けて少々
不安を残す結果となってしまったのです。
A研究員も「大丈夫かな?」という思い
でしたが、リハーサル終了後に驚きと共に
感動の光景を目にします。というのも、そ
の挨拶実習のリーダーが、役員朝礼が始ま
るまでの時間、人目につかない場所で何度
も何度も練習を繰り返していたのです。
普段は社員や取引先から一目置かれる存
在の経営者が、「失敗をすまい」と一所懸命
になっている姿を見たA研究員は、改めて
「全国の倫理法人会は、このような方々に
支えられているんだ」と深く頭の下がる思
いになったのです。
倫理法人会は、生活の法則である「純粋
倫理」を学ぶ場です。それは、時に「純情(ス
ナオ)になる勉強」と表現されることもあり
ます。すなわち、倫理法人会という学びの
場は「何か新たなものを身につける」とい
うよりも、「今までに身についてしまった余
分なものを削ぎ落とす」と言ったほうが適
切なのです。
日常の生活にある肩書きやプライド、そ
して価値観や先入観を捨てて、純(混ざり
けが無い)に取り組む時、今までになかっ
た自分になれるのです。更にその姿は、日々
刻々と変化する予測のつかない事態や、ど
のような苦境をも真っ直ぐに受け切れる姿
勢にも直結します。
A研究員が驚きと感動をもって目にした
挨拶実習担当の経営者のように、「日常に存
在する自分」という固定概念を取り払い、
まるで子供のように純粋に学ぶ心境を目指
してまいりましょう。