月別アーカイブ: 2014年3月
『松下幸之助に学ぶ 指導者の365日』
木野 親之著
『松下幸之助に学ぶ 指導者の365日』
―この時代をいかに乗り切るか―
3月6日 「君、一度社長を辞めたらどうや」
「君、一度社長を辞めたらどうや」
社長が変われば、会社は変わるからです。
幸之助は、
「『日々、是新』が自然の法則だから、
毎日、異質化して、初めて企業は日々成長するもの」
と考え、自ら毎日、進化するために、挑戦していました。
「企業には、明日を保証するものはない」
と、みんなが笑顔で、喜び合える日を夢見て、
「僕は何回も社長(自分)の首を切ったよ」
と言っていました。
社会に与える利益が事業発展の源泉なり
世のすべての企業には、創業・開業といった「はじめ」があります。
「初心忘るべからず」といいますが、これは室町初期の能楽師・謡曲作者である世阿弥の遺訓です。当初は「能楽を習い始めた頃の、未熟さや至らなさを忘れてはならない」という意味で伝えられていたようです。いつしか、それが転じて「何事も始めた頃の志や決意を忘れてはならない」と解されるようになりました。いずれにしても「物事を始めた時の気持ちを忘れるな」ということです。
創業・開業の動機は「自分の技術や能力を活かしたい」「世の中の役に立とう」というポジティブなものから、「ただ何となく」「他に職がないので仕方なく」「ひと儲けして金持ちになる」「社長の肩書が欲しい」「有名になりたい」まで様々でしょう。
動機は各人各様であっても、そこから導かれた社長の意識が「経営理念」となります。それは目的・目標とも直結し、その後の企業価値や商品価値など、企業活動全般に関わってくるといっても過言ではありません。これは後継者が事業を引き継いだ際も同様です。
パナソニック電工の創業者・松下幸之助は「商売というものは単なる売り買いではなく賢明な奉仕であり、そこによき心が通い合わなければならない。社会のため、人々のために奉仕・貢献するのでなければ、事業を大きくする必要はない」と言い遺しています。
本田技研工業の創業者・本田宗一郎は「自分が儲けたいのなら、まず人に利益を与えることを考えよ。そのあとに、そのオコボレをもらう。これが経営の本質でなければならない」と語り、社会に利益を与えることが企業存続の価値であると説きました。
「大切なのは、いつも自分のことを主にして考え、自分の利益だけに重点を置くという生活をしないことだ。自分に五割の利益があれば、相手にも五割の利を考えてやるとか、自分よりもむしろ相手の立場を尊重して、しかも厳然と処置するとか、要は自分以上に相手のためを思うという愛情を決断の根拠にすることである」(『倫理経営原点』第十三章「事業・商売の心得」より)
事業発展のキーワードと共通点は「利他」にあります。そして原理原則は「発顕還元」です。発したものは必ず返るという「振り子の法則」です。振り子は右に振れただけ左に振れます。手前に寄せただけ、逆に前方への力が働きます。問題は力を入れる方向性と順序です。まず人のため、お客様のためにと押し出す。するとこちらに返ってくる。事業の目的は社会のニーズに応えること。応えた分だけ利益として還元されるのが、原理・原則に適った社会のシステムであるべきです。
ただし、現実はそうなっていないところに問題があるのです。問題は二つ。ひとつは自社の問題です。企業として「利他」が実践されているかどうか。自社の問題は経営者の問題です。いかなる創業・開業の動機であっても、経営者自らが目的を「利他」に昇華させることが重要です。もうひとつは社会システムの問題です。倫理法人会は「日本創生」を旗印に倫理経営を多くの企業に浸透させることを目指しています。その活動は「利他」にあり、そして自社に還元されるものなのです。
『松下幸之助に学ぶ 指導者の365日』
木野 親之著
『松下幸之助に学ぶ 指導者の365日』
―この時代をいかに乗り切るか―
3月5日 「安全と安心とは違うで」
「木野君、安全と安心は違うで」と、幸之助はいつも
言っていました。安全は技術的に、理論的に証明され、
説明されないとだめです。
しかし、安全だからと言って、お客様に安心してもらえ
るとはかぎりません。
安心は、お客様の心に唯一、「人間的信頼感」が
生まれた時に、初めて心が安らぐのです。
これを安心というのです。
自動車はピカピカ仕事はグングン上昇
食品荷受問屋を営む田島社長。今まで自家用車はガソリンスタンドで給油と一緒にいつも洗車をしてもらい、一度も自分で掃除することはありませんでした。その田島氏が、縁あって倫理法人会に入会した時のことです。同会主催の講演会で「物は生きている」という言葉を初めて耳にしました。
「感謝を込めて車を掃除すると、事故がなくなり、故障も少なくなります」という話に、車への感謝など今まで考えもしなかった氏は非常に驚きました。交通事故とは、あくまで運転技術の未熟さが引き起こすものとしか考えていなかったのです。しかし「そんなバカな話があるものか…」とバッサリと切り捨てられない思いにもなったのです。氏自身が過去に何度も交通事故を起こした苦い経験があったからです。
田島氏は一念発起し、毎日の洗車・掃除を実践し始めました。どんなに夜遅くなっても、まずは車の掃除を欠かさない毎日となり、二十年余が経過しました。実践をしていると、いろいろと気づかされることが多くあったようです。氏は経営者として当たり前のことや大切なことに、今まで気づかずにいた自分だったと振り返ります。
田島氏の会社には、営業車だけでも二十五台ありますが、食品を扱う車がいつも汚れていた事実に気が回らず、そのまま営業に走らせていたのです。お客様回りの際、自社の車が汚れていては悪いイメージを与えることに、不覚にも初めて気がついたのです。
早速、社員に「車を各自で掃除・洗車するように」と指示したのです。すると、新入社員のA君(22歳)が、翌朝から七時に出勤し、自分の車をはじめ先輩たちの車も掃除し始めたのです。
「おはようA君、毎朝頑張っているな」
「おはようございます。社長、私は車の掃除と営業力とのつながりが、まだよく分からないのですが…」
彼の率直な問いかけに、「お客様回りの時、君がどんなに上手く商品説明をしても、乗ってきた車が汚れていたら、衛生管理面を含めた会社全体のイメージを悪くしてしまうだろう」と社長は諭しました。
「お客様は、いろいろな眼を持っている。その眼を通して様々な判断をされる。だから車をピカピカにしておくことも、セールスを後押ししてくれる大きなポイントになり得る。掃除ひとつとっても疎かにできないのだよ」
A君は今までに遅刻も多く、車での事故もあったといいます。また営業成績の達成率は、毎月80~90%だったのです。新人としては健闘しているかに見えますが、会社側は比較的やりやすい担当エリアを任せていたのです。
それから二カ月後、A君は初めて月の成績が目標を上回る105%を達成したのです。田島社長の言葉に、A君は営業マンとして大切なことを教えてもらったのでした。
本人はもちろんですが、田島社長も社員の成長を自分のことのよう嬉しく思いました。氏自身も車の掃除を始めてからは、一度も事故を起こしていないのです。「物はこれを愛し、大切にする人のために働いてくれる」との純粋倫理の言葉を、公私ともにこれからも大切にしていきたいと願う田島社長です。