消極的か積極的か?

塗装会社に勤務するNさん。
現在は第一線で活躍していますが、入社一年目の時に、岐路に立たされました。
入社当初は〈お客様の笑顔のために精一杯働こう〉と希望に燃えていましたが、半年も経つと、不満が出てきたのです。
 先輩と一緒に現場に出ても、塗装前の下地処理しかさせてもらえません。事務所内でも塗料の発注くらいしか役目が与えられず、毎日地味な作業ばかりでした。
頑張っても報われない日が続き、 次第に情熱も薄らいできました。一年が経つ頃には、〈自分はこの会社に向いていないのではないか〉〈転職したほうが良いのではないか〉と、悩むようになりました。そんな時、塗料の発注ミスをしてしまったのです。
 Nさんが頼むはずだったのは特殊な塗料でした。結局、納期に間に合わず、工事は延期になってしまいました。
上司と共に関係各所にお詫びをしながら、ふとNさんが上司から言われたのが次の言葉です。
「塗装工事で一番大切なのは下地処理なんだ。目に見えなくても、下地処理が適切にされていないと、綺麗に仕上がらない。大切なことは目に見えないんだよ」
ゆっくりと、諭すように話す上司の言葉に、Nさんは目が覚めるような思いがしました。手間がかかり、目立たない下地処理が、実は重要な仕事だったのです。ベテランの職人なら誰でも知っている塗装の基本が、新人のNさんには新鮮でした。 
〈もう一度頑張ろう〉と思ったNさんは、その後、積極的に働くようになりました。下地処理だけではなく、面倒な事務処理も、自分なりに工夫して、良い方法を見つけて取り組むようになりました。 
いつしか転職を考えたことも忘れ、数年後には、現場を任されるまでに成長したのです。
同じ会社で、同じ仕事をしていながら、Nさんの働きに、なぜこれほど違いが生じたのでしょう。

ポイントは、心の状態です。
ミスをするまでのNさんは、入社当初の気持ちを忘れ、〈この仕事は向いていない〉〈どうせやめるんだから〉と消極的な心で仕事をしていました。
その後、先輩の助言のお陰で仕事にやりがいを見い出せるようになり、仕事の成果もぐんぐん上がりました。
消極的か、積極的か――。この心の状態は、人生の岐路での選択にも大きな影響を及ぼします。
転職をやめて会社に残る場合も、〈他に行くところもないし…〉と仕方なく残るのと、〈この仕事を頑張ろう〉と積極的に残るのでは、仕事の成果も、人生の行方さえも大きく変わるでしょう。
受験や就職、転職、独立、結婚など、人は誰でも分岐点に出合います。人生を左右する岐路では悩みも深まるものですが、何かを選ぶなら、前向きに決意したいものです。積極的な心で選択した時にこそ、苦しくても、喜びに満ちた人生が待っているからです。

『松下幸之助に学ぶ 指導者の365日』

木野 親之著
『松下幸之助に学ぶ 指導者の365日』
―この時代をいかに乗り切るか―

5月20日 「経営理念が確立できれば」

「経営理念が確立できれば、その事業は半分成功したようなものや」
幸之助は、事業成功の三原則を、次の三つと言っています。

一、 絶対条件 経営理念の確立 50パーセント
二、 必要条件 個性を最大限発揮できる環境条件 30パーセント
三、 付帯条件 戦略・戦術 20パーセント

「戦術は好きなようにやったらいい」と。

『吉田松陰一日一言』

川口雅昭氏編  致知出版

『吉田松陰一日一言』

―魂を鼓舞する感奮語録―

5月20日 「今を論じ難ければ」

 

古を執りて今を論じ難ければ皆空論なり。  安政3年6月7日「講孟劄記」

【訳】

昔の事例をもって、今のことを論じることができないのであれば、皆無益な議論である。

『吉田松陰一日一言』

川口雅昭氏編  致知出版
『吉田松陰一日一言』
―魂を鼓舞する感奮語録―

「心定めや」 

明君賢将必づ其の心を定む。吾が心一たび定まりて、将吏士卒誰れか敢へて従はざら
ん。(中略)心定めや、特に一旦奮激の能くする所に非ず、必ずや心胆を涵養鍛錬す
ること素あるものにして、能くすることありとす。  嘉永3年8月20日「武教全
書 守城」

【訳】
賢明な君主や賢くすぐれた将軍など立派なリーダーというものは、まず腹を決めるも
のである。トップの腹が決まれば、部下たるもの、どうしてそれに従わないことがあ
ろうか。ありはしない。(中略)しかしながらこの決断を下すということは、一時的
に心を奮い起こすことでできることではない。必ずや心や胆を、水が自然にしみこむ
ように少しずつ養い育て、体力・精神力・能力などを鍛えて強くすることによっての
み可能となる。

『松下幸之助に学ぶ 指導者の365日』

木野 親之著
『松下幸之助に学ぶ 指導者の365日』
―この時代をいかに乗り切るか―

5月19日 「金があると思えば、傲慢になる」

「金があると思えば、傲慢になり、金がないと思うと、卑屈になる。
金は使うだけあればよい」
こう考えれば、心は豊かになります。
ないと考えるか、あると考えるか。
世の中すべて、モノの考え方一つで成功するか失敗するかに分
かれるものです。
「考えることにはコストがかからない」と、幸之助はいつも熟慮を
重ねていました。