住宅設備機器会社で勤務するNさんは、今でこそ営業部の中核を担う存在ですが、
入社後しばらくは、成績が振るわず悩んでいました。いくら頑張っても成果につながらず、会社へ行くのも億劫になっていました。
ある日、先輩に同行して営業に出かけました。顧客先で先輩の話し方を聞いていると、
あることに気がつきました。先輩は、自分が話すよりも顧客の話を聞き、
相手の気持ちや要望を察しながら商談を進めていたのです。
結局、その日の商談はまとまりませんでした。しかし、Nさんには、得るものが多くありました。
Nさんは日頃、売りたいものの良さを相手に伝えることばかり考え、
〈熱意があれば必ず伝わる〉と思って話を進めていたのです。
お客様が今何を考え、何を求めているのかは後まわしでした。
あまりに一方的な話し方だったことを反省したNさんは、先輩に倣って、
相手の話に耳を傾けながら商談に臨むようになりました。
今までの営業スタイルを変更するわけですから、最初は手探りでした。
しかし、自分中心の考えから、〈相手あっての営業だ。最後はお客様の判断に任せよう〉
という気持ちになるにつれて、次第に売上も伸びていったのです。
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私たちは会議や営業、プレゼンテーションなど様々な場面で、
自分の思いを人に伝える機会があります。
その時、熱意が空回りして、思いがうまく伝わらなかったことはありませんか。
伝わらないどころか、自分本位、自己中心的な話しぶりは、
相手に不信感さえ与えてしまいかねません。
何かを「伝える」ということは、そこに必ず「相手」が存在します。
その相手は十人十色であり、千差万別。一人ひとり感じ方、考え方が違います。
相手の立場に立って物事を考え、提案を伝えていけば、
こちらに関心を持ってもらえる可能性は高まるでしょう。
仕事の成果に結びつくような、厚い信頼関係を築くこともできるでしょう。
また、相手から正反対の意見や提言をされることがあるかもしれません。
その時こそ、新たな視点や気づきを得るチャンスです。
そうして自分を高めながら、自ずと培われる人間性こそ、
人に物を伝える際の大きな力となるはずです。
倫理運動の創始者・丸山敏雄は「どうしたら人に感動を与える話ができるのか」という相談に、
このように答えています。
「結局は、その人の人柄に帰するのではないでしょうか。その人が話をしておる態度、
話の前後の態度からくる人間としての深さと真実の反射ということになりましょう。
うまく話そうという欲を起こしますと失敗します」(『丸山敏雄言行録集Ⅱ』)
その人の態度からくる人間的な深みこそ、人の心を打つ話の源泉があるのだ、
と丸山敏雄は述べています。「いかに伝えようか」と力むより、
相手の話を誠実に聞くことに心を向け、感謝を持って相手と接しましょう。
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まずは、お客様、相手の話を誠実によく聞き、要望を的確にとらえます。