『松下幸之助に学ぶ 指導者の365日』

木野 親之著
『松下幸之助に学ぶ 指導者の365日』
―この時代をいかに乗り切るか―

10月31日 「人間の最も美しい姿は」

「頂上は一つでも、道は無数にある。
しかし、道は無数にあっても、正しいとは一つのところに
止まることをいうのだよ」
懐かしい幸之助の言葉です。
人間の最も美しい姿は、その人が精一杯正しいところに
止まって真剣に自分の仕事に打ち込んでいる姿です。
体験を通じて、身についたものは、その人だけに与えられた、
なにものにも勝る宝です。
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人生回り道、過ぎてみれば自分の道。
回り道しながらも頂上を目指します。

『松下幸之助に学ぶ 指導者の365日』

木野 親之著
『松下幸之助に学ぶ 指導者の365日』
―この時代をいかに乗り切るか―

10月30日 「自分が代わってやる」

「任せてもだめな場合には、自分が代わってやる。
具体的な指示をする。具体的な方法を提案する。
任せて任さずとはこのことや」

幸之助は、部下の足らざるを補って、初めて部下に責任をもって
仕事を任せられるものだと言っています。
七〇の力を持つ者には三〇の足らざるところを上司が補ってあげる。
つまり、三〇を放任してはだめなのです。

「急々型」に成功への道あり

自然の困難に見舞われても逃げることなく、時に先頭に立ち、周囲を鼓舞できるような
リーダーシップを発揮して成功を収めることのできる人は、どのような人でしょう。
成功者と呼ばれる人たちには、様々な共通点があります。
私たちが学ぶ純粋倫理においては、「気づいた時、気がるに、喜んで、さっと処理する」「
気づくと同時に行なう」というように、「気づき」を活かし、すぐ実行に移すところに
成功の秘訣があると説いています。
「武士道とは死ぬことと見つけたり」の一文で知られる、武士の心得を説いた江戸時代中期の
書物『葉隠』には、物事を即行動に移すことの重要性が書き記されています。 
それによれば、人は「急だらり」「だらり急」「急々」「だらりだらり」の四つのタイプに
分かれるそうです。
①急だらり型…理解は早いが実行が遅い。
②だらり急型…理解は遅いが実行は早い。
③急々型…理解は早く実行も早い。
④だらりだらり型…理解も実行も遅い。
『葉隠』には、「急々が最上で、なかなかそういう者はいない」と記されています。
「理解」を「気づき」に置き換えて、自分の生活を振り返ってみると、
いかに「気づき」を疎かにしているかがわかるはずです。
例えば、朝、せっかく目が覚めたのに、いつまでも布団の中でグズグズしている。歩いていて、
ゴミが落ちていることに気がついても拾わない。自分の視界に相手が入ってきていても、
自ら進んで挨拶をしない。呼ばれていることに気がついているのに返事を返さない…などです。
私たちの脳は、何かをするとき、ちょうどよいタイミングで気づくようになっています。
気づいているのにそれを放っておいて行動に移さないということは、その好機を
逃していることに他なりません。
では、「気づき」を活かし、人生の成功者になるためには、どのような行動を起こしていけば
いいのでしょうか。
それはとてもシンプルなことです。気づいたらすぐする「即行」の実践に徹することです。
例えば、次のような事柄を実践してみましょう。
◎朝、目が覚めると、すぐ起きる。
◎サッと顔を洗い、サッと食事を済ませて、サッと出勤する。
◎仕事が終われば、ぐずぐずせずにサッと退社する。
◎人から教えられたことは、すぐに実行する。
◎手紙の返事はすぐに書く。
◎仕事を明日に残さない。
◎用件を後回しにしない。
◎出足、引き足を早くする。
今この瞬間が、それをするのに最も良い時機であるという「気づき」を大いに活かし、職場でも、
日常生活でも、充実した日々を過ごしていきたいものです。

自然災害と向き合う心

今年九月、北関東に降り続いた豪雨は、河川の氾濫を招き、多くの被害をもたらしました。 
創業五十四年、建築業を営むS社も大きな被害を被りました。
S社の社屋は茨城県常総市にあります。近隣を流れる鬼怒川が決壊したのが九月十日です。
社屋は決壊地点から約十キロ離れていましたが、夜にかけて一気に浸水速度が加速しました。
深夜十時頃、本社近くに住む社員からの報告により、百五十センチ以上の浸水で、
一階部分がほぼ水没してしまったことを知ったのです。
 水が引くのを待ってH社長が会社に駆けつけると、社屋は泥と強烈な匂いに覆われていました。パソコンや書類はもとより、社用車三十二台が水没。電気や水道、電話回線も止まり、
被害は甚大でした。唯一の幸いは、人的被害がなかったことでした。
あまりの光景に〈これが現実なのか…〉とショックを受けたH社長ですが、嬉しかったのは、
社員がすでに後片付けを始めていたことでした。それぞれ自宅も被害を受けている中、
自主的に出勤し、泥だらけになって復旧にあたる社員の姿に、
〈この社員たちとなら、必ず再出発できる〉と確信を持ったといいます。
支払いについても、濡れた伝票を乾かし、一枚ずつ再入力をして、
すべての支払いに間に合わせることができました。
 この災害の渦中、経営陣で話し合われたのは、
「くよくよしてもしょうがない。支払先に迷惑をかけないように、また、
災害に遭った顧客のためにも、いち早く再起を図ろう。
そのためにも込み上げる心配や不安を捨てて、喜んで働こう」
ということでした。
 この思いは社員にも広がり、過酷な中でも、終始明るく作業できたといいます。
倫理法人会の仲間から寄せられた多くの励ましや飲料水なども、復旧を後押ししてくれました。
二週間後には何とか事業を再開。近隣の倫理法人会から依頼されていた会社の朝礼発表も、
予定通り実施しました。「このような時だからこそ、やる意味があると思った」と言うH社長。
本格始動はまだこれからですが、このひと月を振り返り、こう語ります。
「いち早く気持ちを切り替え、社員一丸となって復旧にのぞむことができたのは、
前社長の頃から純粋倫理を学び、活力朝礼を行なって、約十五年間、
足下の実践に努めてきたことが大きかった。物事を積極的・主体的に捉える習慣が会社全体に
広がっていたのだと思います。この被災体験を機に、ますます社員と心を一つにし、
地域に喜んでいただける会社づくりに邁進してまいります」

突発的な苦難や災難が発生した時にこそ、本来の自分の姿が表われるものです。
気づいたらすぐする、挨拶、返事、清掃などの足下の実践に喜んで取り組み、
さらに活力朝礼で心を合わせるトレーニングを積み重ねることで、
積極性や前向きに捉える習慣が育まれ、「いざ」というピンチに強い組織が生まれてくる
のでしょう。