『松下幸之助に学ぶ 指導者の365日』

木野 親之著
『松下幸之助に学ぶ 指導者の365日』
―この時代をいかに乗り切るか―

12月14日 「人に光を当てんといかん」

人に光を当てると言うことを、幸之助に言われたとき、まさか
懐中電灯で照らすのかと、若気の至りで思いました。
そうではなく、人間をすべての中心に据えて、ものごとを考え
ろ、という意味でした。

「木野君、あの○○君は今どうしてるんや。人間がおとなしい
から、何か困ってることないやろな?」
幸之助の人間主役の経営を実感した瞬間でした。
心優しい「仁の人」でした。

物の整理は心の整理

目課や決まった手順を意味する言葉に、「ルーティン」があります。
昨年のラグビーワールドカップで活躍した五郎丸歩選手の一連の動作は、
キックの精度を高めるために生み出されたルーティンです。重要な局面において、
力を発揮できるように心を整える、五郎丸選手オリジナルの精神統一法といえるでしょう。
ある経営者の体験談です。Sさんは、几帳面で大のきれい好きです。
道端にタバコの吸殻や空き缶が落ちていると、拾って、会社まで持ち帰ることが習慣に
なっていました。
職場でも常に清掃や整理整頓を心がけています。特に意識したのは、共有の場ではトイレ、
洗面所などの水周り、身近なところではパソコン、デスクの引き出し、かばん、
ゴミ箱の中でした。Sさんにとって、清掃や整理整頓は、次の仕事に向けて、
心を整えるルーティンだったのです。
一昨年の夏頃から、Sさんの会社は業績が上向き始めました。忙しさが増す一方、
Sさんは仕事を部下に任せることができず、自分の力を頼りに仕事を抱え込むようになりました。これまでの習慣だった整理整頓をする余裕もなく、Sさんの周辺には、
次第に不要なものが溜まってきたのでした。
その頃から、職場や家庭で異変が起き始めたのです。自社製品へのクレーム、社員の交通事故、
子供の不登校……。立て続けにやってくるトラブルの対処にとても困ったSさんは、初
めて倫理指導を受けました。
事情を話すと、「忙しさを理由に、これまで大切にしていたことを疎かにしていませんか。
また、周りを信じず、自分の力ですべてを解決しようとしていませんか」と問われたのです。
Sさんはハッとしました。これまで行なってきた清掃や整理整頓は、忙しくなると、
いとも簡単に止めてしまうような、上辺だけの実践であったこと、そして〈今がチャンス〉
とばかりに仕事を抱え込み、部下に任せられなかったことは図星だったからです。
ルーティンはむしろ、忙しく、心に余裕がない時ほど必要だったのです。この日を境に、
Sさんは、仕事を溜め込まず、部下を信じて任せることを心に決めました。また、日に一度は、
清掃や整理整頓することを決意しました。
「決心したその時から、肩の力が抜け、何か憑きモノが取れたような感じがします。
無理やり背伸びをしていた自分とサヨナラすることができました」と、Sさんは後に語っています。
Sさんが心と行動の実践を始めて三カ月、社内には以前の清々しい雰囲気が戻ってきました。
そして、職場や家庭での問題事が目に見えてなくなってきたのでした。
物の整理は心の整理といわれます。また、清掃や整理整頓は、
次のスタートを気持ちよく切るきっかけにもなります。
どのような局面でも百パーセントの力を発揮できるよう、物を整えることから、
自分の心の整理にもつなげていきたいものです。

『松下幸之助に学ぶ 指導者の365日』

木野 親之著
『松下幸之助に学ぶ 指導者の365日』
―この時代をいかに乗り切るか―

12月13日 「自分をチェンジするんやで」

幸之助は、私が松下電送の社長時代に、「木野君な、
経営理念に祈って祈って、人ではなく自分をチェンジ
するんやで。チェンジするのは自分の生命や」と、よく
言いきかせてくれました。

自分の生命をチェンジするとは、考え方をチェンジす
ろという意味でした。
そうして、宇宙根源の法則に乗って、勝手に道が開け
てくるのです。今思うと、幸之助は短い言葉で、深い深
い生き方の極意を伝えてくれていたのです。