建設会社で働いているAさんは、数カ所の現場を受け持っています。
どの現場にも、様々な業者が出入りしています。
とあるビル建築の現場に入った際、一緒に仕事をする業者の中にどうしても苦手な人がいました。
 その人はいつも仏頂面でした。表情が険しく、口を開けば嫌味を言います。
何度か顔を合わせても、〈ちょっと嫌なタイプだな〉という第一印象は拭えません。
一度苦手だなと思うと、することすべてが気になって、イライラは募るばかりでした。
それでも、自分から挨拶をするように心がけていたAさん。社長からいつも
「挨拶は人間関係の基本。どこにいっても明るく爽やかに挨拶するように」
と教えられていたからです。
また、休憩時間には缶コーヒーを持って話しかけ、打ち解けようと努力をするのですが、
状況は変わらないままでした。
このままでは、肝心の仕事にも支障をきたしてしまいます。
何とか関係を良くしたいと思ったAさんは、次のように考えました。
〈この人はずっとこうだったんだ。今さら変わるわけがない。ならば、そのままを受け入れよう〉
そう考えると、吹っ切れたように心が軽くなったのです。
これまで、缶コーヒーを差し入れていたのも、〈相手に取り入りたい〉という心からでした。
苦手意識はあるものの、〈相手に自分のことを好きになってほしい〉というのが本心でした。
それが、〈この人はこのままでいい。仏頂面も個性なんだ〉と考えると、
顔を合わせることが苦痛ではなくなったのです。気軽に会話ができ、自然に笑顔がこぼれました。すると、相手も笑顔を返してくれたのです。
 相手をありのまま受け入れようと思った時、これだけ状況が変わるのかとAさんは驚きました。その後は苦手意識もなくなり、スムーズに仕事が進むようになりました。
やがて、別の現場でも、その人から指名が入るほどの信頼関係が生まれたのです。
人と人が対面する場においては、言葉以外にも、表情や視線、姿勢、
動作など様々な要素が組み合わさって、コミュニケーションが取れます。
表向きは笑顔で接していても、心の中では〈何となく嫌だな〉〈苦手だな〉
と感じていることは誰にでもあるでしょう。
そのような心は、どこかに表われてしまうものです。心と身体はひとつながりだからです。
人間関係でうまくいかない時、その根本には、相手を避ける気持ちが潜んでいるかもしれません。たとえ「好き」にはなれなくても「嫌わない」こと、
「相手をそのまま受け入れる心持ち」を人間関係の根幹に据えたいものです。
最後に、倫理運動の創始者・丸山敏雄の言葉を引用して、今月のテーマを締めくくりましょう。
  明るい心が、身体を健康にし、家庭を明朗にし、まわりを楽しくし、仕事を順調にする。
心が先であり、心がすべてである。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
松下幸之助翁の
「鳴かぬならそれもまたよしほととぎす」
に通ずる気かあしました。
自然体で相手を受け入れます。