自然災害と向き合う心

今年九月、北関東に降り続いた豪雨は、河川の氾濫を招き、多くの被害をもたらしました。 
創業五十四年、建築業を営むS社も大きな被害を被りました。
S社の社屋は茨城県常総市にあります。近隣を流れる鬼怒川が決壊したのが九月十日です。
社屋は決壊地点から約十キロ離れていましたが、夜にかけて一気に浸水速度が加速しました。
深夜十時頃、本社近くに住む社員からの報告により、百五十センチ以上の浸水で、
一階部分がほぼ水没してしまったことを知ったのです。
 水が引くのを待ってH社長が会社に駆けつけると、社屋は泥と強烈な匂いに覆われていました。パソコンや書類はもとより、社用車三十二台が水没。電気や水道、電話回線も止まり、
被害は甚大でした。唯一の幸いは、人的被害がなかったことでした。
あまりの光景に〈これが現実なのか…〉とショックを受けたH社長ですが、嬉しかったのは、
社員がすでに後片付けを始めていたことでした。それぞれ自宅も被害を受けている中、
自主的に出勤し、泥だらけになって復旧にあたる社員の姿に、
〈この社員たちとなら、必ず再出発できる〉と確信を持ったといいます。
支払いについても、濡れた伝票を乾かし、一枚ずつ再入力をして、
すべての支払いに間に合わせることができました。
 この災害の渦中、経営陣で話し合われたのは、
「くよくよしてもしょうがない。支払先に迷惑をかけないように、また、
災害に遭った顧客のためにも、いち早く再起を図ろう。
そのためにも込み上げる心配や不安を捨てて、喜んで働こう」
ということでした。
 この思いは社員にも広がり、過酷な中でも、終始明るく作業できたといいます。
倫理法人会の仲間から寄せられた多くの励ましや飲料水なども、復旧を後押ししてくれました。
二週間後には何とか事業を再開。近隣の倫理法人会から依頼されていた会社の朝礼発表も、
予定通り実施しました。「このような時だからこそ、やる意味があると思った」と言うH社長。
本格始動はまだこれからですが、このひと月を振り返り、こう語ります。
「いち早く気持ちを切り替え、社員一丸となって復旧にのぞむことができたのは、
前社長の頃から純粋倫理を学び、活力朝礼を行なって、約十五年間、
足下の実践に努めてきたことが大きかった。物事を積極的・主体的に捉える習慣が会社全体に
広がっていたのだと思います。この被災体験を機に、ますます社員と心を一つにし、
地域に喜んでいただける会社づくりに邁進してまいります」

突発的な苦難や災難が発生した時にこそ、本来の自分の姿が表われるものです。
気づいたらすぐする、挨拶、返事、清掃などの足下の実践に喜んで取り組み、
さらに活力朝礼で心を合わせるトレーニングを積み重ねることで、
積極性や前向きに捉える習慣が育まれ、「いざ」というピンチに強い組織が生まれてくる
のでしょう。