和の精神文化を経営に活かす

日本文化の特質として挙げられるのは、「和」の精神です。
古くは、聖徳太子の十七条憲法の第一「和を持って貴しと為す…」にもそれが表われています。
 その「和」の精神を経営にも活かしてきたところに、日本的経営の特徴があります。
経営の神様といわれた松下幸之助氏は、「和親一致」を経営理念に掲げていました。
氏は、人の和が熟練された組織の姿を「上意下達」「下意上達」に見ていました。
「社長の考えていることが少しも下に通じない会社は、概して上手くいっていないようです。
また逆に、下意が全然上達していない会社は、さらによくないと思います」
と氏は述べています(*1)。
また、江戸時代の三井家(現在の三井グループ)の家法「宋竺遺書(そうちくいしょ)」には、「上に立つものが邪(よこしま)の心の持主であれば、下もその通りになるものだ」
と説かれています(*2)。
建設設計を営んでいるO氏は、朝礼の進め方に悩んでいたところ、
『職場の教養』を紹介されました。さっそく倫理法人会に入会して、活力朝礼を導入しました。
以前よりも社内の風通しはよくなりましたが、相変わらず社員の働き振りには不満を
抱いていました。社員を教育しようと、あの手この手で取り組むのですが、
反発されることも多くあったのです。
そんな折、O氏は倫理法人会の役職を受けることになりました。何をすればいいのか
わからなかったので、講師にアドバイスを求めると、「会長の良いところを百個見つけること。
心から合わせること」と教えられました。
早速、その通りにしようと努力したのですが、自分の考えや方針と異なる会長に、
なかなか合わせられません。見下されたような言葉に、反発を覚えることも多く、
険悪なムードが続いたのでした。
ある時、これは現在の会社の状況と似ていることに気がつきました。
〈社員もこんな気持ちで私に反発していたのか〉と振り返ることができ、O氏は、
社長としての自分の姿に気づいたのです。
以来、O氏は会長に合わせることを徹底して行ないました。すると、これまでは指示を出さないと動かなかった社員が、自分から判断を仰ぎにきたり、会社にいなくても、積極的に報
告・連絡・相談をするように変わってきたのです。 
職場も以前より活気が出てきました。社員の姿は、中心者である自分の心の反映であったのです。
経営者の心が明朗闊達である時、事業はまっすぐに進みます。異なる意見を聞き入れ、
衆知を集め、心を合わせる時、新たなものが生まれてきます。日本という国も、あらゆる文化を
受け入れ、独自のものを生み出しながら、かつ日本らしさを失わずにきました。
塩が水に溶ければ、全体が塩味になるように、合わせることで自己が全体に及びます。
中心者自らが変わって、周囲を変化させていく実践こそ、
「和」の精神を基調とした倫理経営といえるでしょう。