役を知り、役に徹する

私たちは、職場のみならず、様々な組織や集団に属しています。それぞれの場において、
自分の役割を自覚するには「役を知り、役に徹し、役を超えない」ことです。
「役を知る」とは、自分の役職の立場を熟知すること。「役に徹する」とは、与えられた役職の
職務を徹底して行なうこと。「役を超えない」とは、自分のついている役職の領分を
超えないことです。
Aさんは、二年前から新しい上司の下で仕事をするようになりました。気さくな人柄で
接しやすい反面、業務においては冷徹ともいえる厳しさを兼ね備えた上司です。
当初Aさんは、自分に足りない部分を的確に指摘し、厳しく接してくれる上司に巡り会えたことを嬉しく感じていました。仕事の決断が早く、何事も迅速に対応する姿勢は、社会人として
見習うべき姿でした。
しかし、Aさんのもとには、毎日、次から次へと仕事が舞い込んできます。Aさんの状況など
お構いなしに、上司は、新たな仕事の指示を出してきます。
「○○さんにすぐ確認をして」
「今すぐ○○さんに電話して」
「○○のデータを一覧表にして」
言われた仕事は何とかこなすものの、いつしか〈このままでは体がもたないかもしれない〉と
思うようになりました。
数カ月が経ったある日、顔面に違和感を覚えたAさん。鏡を見ると、顔の左半分が腫れて
いました。純粋倫理を学んでいるAさんは、鏡に映った顔を見た瞬間、「病気は生活の赤信号」
という言葉が頭をよぎりました。
日々の業務を振り返ってみると、上司の席はAさんの左隣です。仕事の指示はすべて左側から飛
んできます。与えられた仕事を受け入れる事ができず、時には〈こんなに忙しい時に!〉
と不足不満に思っていたのです。
そこでAさんは考え、まず自分の職責上の立場を再確認することにしました。次に、
その立場を踏まえ、上司の指示にどのように対処するのが一番望ましいかを検討しました。
その結果、「言われたことは、すべてそのまま受けて、即行動に移す」ことにしたのです。
はじめは、いつものように腹を立ててしまい、言われたことを
なかなか受け入れられませんでした。それでも、すぐにそのまま実行するよう努めていきました。
一年が過ぎた頃、Aさんはあることに気づきました。上司の指示通りに処理する方が、
スムーズに仕事が流れていたのです。さらには、指示以外の仕事も、うまく進んでいく
ようになりました。
Aさんは、自分自身の「役」を知ることで、「役」に徹することができました。
立場の自覚が深まるとともに、一回りも二回りも成長し、以前よりも溌剌と日々の業務に
励んでいます。
同じ目的で仕事をする上で、各自の立場を明確にしなければ、それぞれの良さは発揮できません。「役を知り、役に徹し、役を超えない」という観点で、今一度、自身を振り返ってみましょう。