ある地方で五軒のクリーニング店を営むYさんは、子供の頃から、「健康であること」
が何よりの自慢でした。滅多に風邪もひきません。
そんなYさんも、年齢を重ねて、疲れを感じるようになってきました。特別にどこか具合が悪い
という自覚はなかったのですが、妻の勧めもあり、初めて人間ドックを受診することに
なりました。五十五歳の誕生日でした。
〈何か見つかるかな…〉という一抹の不安がよぎったYさん。その予感は的中しました。
胃に、ポリープが三つ見つかったのです。医師からは、「癌の可能性もあるので、念のため切除
して、調べてみましょう」と言われました。
翌週、内視鏡手術でポリープを切除。検査の結果、やはり癌という診断でした。幸い早期に切除
できたため転移はなく、経過観察をすることになりました。
この結果は、Yさんにとってショックでした。健康への自信が、癌という言葉を聞いて、
ガラガラと崩れていったのです。
不安を覚えたYさんは、倫理法人会の講師に、倫理指導を受けることになりました。
じっと話を聞いていた講師は、Yさんにこのように告げました。
「Yさん、モーニングセミナーで読む『万人幸福の栞』には〝病気は生活の赤信号〟
とありますね。いったん立ち止まって、今までの仕事や人間関係、家族のことなど生活全般を
振り返りながら、誤りを正して先に進むことです。何か思い当たることはありますか」
その言葉に、Yさんはハッとしました。これまで健康が自慢でも、健康であることに感謝した
ことはありませんでした。また、仕事仕事でガムシャラに突き進んできたYさんを支え、
食事面でも気を配ってくれていた妻の健康を気遣う余裕もなく、店が忙しいことを理由に、
子供たちを旅行に連れていったことも皆無でした。そして、一所懸命働いてくれている従業員
にも、感謝の言葉一つかけたことがなかったのです。
「どうやら私は、いろいろなことに感謝を忘れていたようです。これでは病気になるのは当たり前ですね。でも、今が良くしていくチャンスなのですね。まず、家族に感謝を伝えることから
始めます」と、実践を誓ったYさん。自宅に戻ると、早速妻に、これまでのお詫びと
、支えてくれたことへのお礼を告げました。子供たちにも「今までありがとう」と伝えました。
皆キョトンとしていましたが、その後の笑顔に、嬉しさが表われているようでした。
それから五年が経過しましたが、再発も転移もなく、医師からは「もう大丈夫でしょう」という
お墨付きをもらいました。今は、健康に育ててくれた両親に感謝し、家族や従業員には、
折々に言葉で感謝を伝えているYさんです。
身に降りかかった苦難には必ず意味があります。〈この苦難は自分に何を教えてくれているのか〉と謙虚に受け止め、実践を通して、より良い人生を過ごすための糧としていきたいものです。