鋭い痛みのメッセージ

K氏はある研修会の講師を務めることになりました。ところがその一週間ほど前から、顔の頬の部分に赤い
ブツブツができはじめました。時間を追うごとにチクチク、ピリピリとした鋭い痛みを感じるようになり、
下を向くたびに、全身に電気が走ったような痛みに襲われました。たまらず皮膚科を受診すると、帯状疱疹で
あるということでした。
医師の説明によると、顔に帯状疱疹が出た場合、失明や脳炎などの重病に至るリスクがあるとのことです。
その場で赤外線による治療を受け、薬をもらって帰宅しました。帰路、〈大変な病気になったものだ〉と、
不安が募ったK氏。一週間後に控えた研修のことも気がかりでした。
K氏は、倫理法人会で純粋倫理を学んでいます。会員は、身の上に生じた苦難や家庭での悩みなどについて
「倫理指導」を受けられることを思い出しました。
「病気は生活の赤信号」と学んでいたこともあり、K氏は講師に指導を受けることにしました。
講師は、症状を詳しく聞いた後、「痛みは、ビリビリ、ピリピリするのですね」と念を押しました。
「はい」と答えると、講師はこう語りかけたのです。
「そのピリピリ、ビリビリしたあなたの痛みは、周りの人の痛みではないでしょうか。特に家庭内において、
奥様をピリピリさせていることはありませんか」
K氏は絶句しました。まさに講師の言う通りだったからです。
K氏の妻は、ある持病から、病院で治療を受けています。妻は、病院での投薬以外に、
〈あれが効くかもしれない〉と思うと、薬局で購入します。そして、何種類もの薬を服用しているのです。
K氏は薬の飲み過ぎによる副作用を案じ、「そんなに薬を飲んでどうするのか! 効くはずがない、
やめなさい!」と強い口調で怒鳴っていたのです。 
そのうちに妻は、夫から叱られるのが嫌で、隠れて薬を飲むようになりました。その他にも、些細な事柄でも
妻を怒鳴ることがあり、夫婦間にピリピリした空気が流れていたのです。
〈ああ、自分は妻を追い込んでいた。この帯状疱疹は、妻の心の内の反映だったのだ〉と、
K氏は深く反省しました。
帰宅したK氏は、「今日、薬は飲んだの? 君が良いと思う薬は、きっと君に効くはずだよ」と妻に言葉を
かけたのです。思いがけない言葉に妻は「飲んでいいの?」と聞き返しました。K氏は薬を飲む水を
渡しながら、妻にうなずきました。
妻に優しい言葉をかけたことに呼応するように、K氏の顔の痛みは、その日を境になくなったのです。
夫婦の会話も以前より弾むようになり、妻もむやみに薬を飲むことはなくなりました。
 純粋倫理では、夫婦の一致和合こそ、すべての幸福のもとであると考えます。K氏は自らの身に起きた
病気を通じて、夫婦間の愛情が身体の健康を作り出していくことを体験したのです。