前号の「今週の倫理」では、夫婦間の愛情が身体の健康を作り出すことを述べました。今週も、夫婦と健康に
関する、ある体験を紹介しましょう。
A氏の新婚時代の話です。仕事柄出張が多く、夫婦で過ごす時間は少ないものの、努めて妻と会話を
するようにしていました。
当時A氏には、一つだけ悩みがありました。冬になると、肌がカサカサに乾燥することです。特に両肩の皮膚
がかゆくなり、血が滲むほど掻きむしってしまうのです。
ある時、出張から戻ったA氏に、妻が、「肌着に血が付いていたけど、どうかしたの?」と尋ねました。
A氏は妻に心配かけまいと、その話をしていなかったのです。
肌が乾燥して痒くなることを話すと、病院で診てもらうよう妻に言われました。しかし、病院嫌いのA氏は、「忙しいから」と言ってそのまま放置していたのです。
その後も、ことあるごとに病院へ行くよう妻に言われます。次第にうるさく思うようになり、夫婦の会話自体も、少なくなっていきました。
当時は、仕事上でも多忙な時期にあり、小さなミスが増えていました。そのイライラから、余計に肩を
掻きむしってしまいます。
業務の多忙がピークを迎えた頃、A氏は上司から食事に誘われました。上司は、仕事が忙しくなると、
妻に感謝するよう心がけていると言います。「忙しい時ほど、家庭を顧みないと、良い仕事もできないからね」という言葉は、まるで、今の自分の心境を見透かされているようでした。
帰り道、上司の話を思い出しながら、自らの家庭生活を顧みたA氏。これまで〈家庭のことは妻がやって
当たり前〉という思いでいたため、結婚以来「ありがとう」という感謝の言葉すら口にしていなかったことに
気づいたのです。
妻はそれでも、愚痴一つ言わずに、笑顔で自分を受け止めてくれていました。妻の気持ちを思うと、感謝の
気持ちをしっかり言葉で伝えたいと思ったのです。
帰宅したA氏は、〈今しかない〉と思い、妻に話し始めました。
「今日は上司の話を聞いて、家庭のことを君に押し付けてきたことに気づいた。これまで家庭を守って
くれてありがとう」「いつも話を聞いてくれてありがとう」「もっと君の話を聞くように心がけます。これからもよろしくお願いします」と、三度頭を下げたのです。
頭を上げて妻を見ると、妻はボロボロ涙を流していました。その姿を見た時、〈しまった! 今まで我慢させてきたな〉と痛切な反省がA氏に込み上げてきたのです。そして、自分のすべてを受け止め続けてくれている
妻の愛の深さを知ったのです。
数日後、肩のかゆみが軽減していることに気づきました。鏡で見ると、きれいに治っていたのです。
A氏は〈女房の涙がきれいにしてくれたのか〉と思わずにいられませんでした。その後、
かゆみが出ることはありませんでした。
夫婦の深い結びつきは、肉体をも潤す力があるのです。