何事にも努力は必要です。ただじっとしていては、沸き立つような歓びやワクワクする時間を獲得することは
できません。
人を好きになるのも同様でしょう。「食わず嫌い」という言葉があるように、好きになるにも、相応の努力は
求められるものです。
かつては愛情豊かだった夫婦関係も、年を経るごとに、熱が冷めてしまうことを実感されている方も多い
でしょう。いわゆる倦怠期に陥ってしまった時、どのような智恵に学べばよいのでしょうか。
還暦を過ぎた、あるご婦人のお話です。定年退職を迎え、単身赴任の夫が週末に帰ってくるのを待つ生活が
始まった頃のことでした。婦人は、言いようのない虚しさにとらわれるようになりました。
〈なんとなく結婚し、一所懸命に子育てをして、子供たちは願う通りに成長してくれた。でも今はみな家を
出て、一人ぼっちになってしまった。燃えるような恋愛の末に結ばれたわけではない私にとって、
夫が帰ってきたからといって、ときめきも感じない。無味乾燥のまま、私の人生は
終わりを迎えてしまうのかしら〉
もやもやとした気持ちを抱えながら、婦人は、今後どのように生き甲斐を見つけていけばいいのか、
倫理研究所の講師に相談を持ちかけたのでした。
「離れて暮らすご主人のために、一日の内、どれくらい時間を費やしていますか」という講師からの問いに、
婦人は「まったくありません」と答えました。「では五分でもいいですから、日課として、目の前にご主人が
いらっしゃると思って、尽くす何かを行ないませんか」と講師。婦人は講師とのやり取りの中から、
単身赴任先の夫に、毎日、ハガキを書いて投函することを決めました。何を書いたらよいのか戸惑いましたが、「日常のありきたりのことでいいのですよ」という講師の言葉に、「それならできそうだ」と始めたのでした。
三カ月ほど経った頃でしょうか。一週間ぶりに帰ってくる夫を待ち遠しく思う心の変化に気づきました。
週末が近づくにつれ、そわそわしている自分がいるのです。
そのうち、庭先の駐車場に夫の車の音が聞こえると、外まで出迎えるようになりました。さらに一日一枚の
投函を続けていると、早く戻って来てほしい、顔を見て話したいという気持ちが募りました。
一週間の勤めを終えた夫に、少しでも喜んでもらいたいとの思いから、和装し、薄化粧をして、三つ指を
ついて夫を玄関で迎えた時のことです。目が合った瞬間、二人とも思わず吹き出してしまい、何とも言えない
和やかな空気に包まれたのでした。
還暦を越え、夫婦二人きりになってから始まった恋愛。相手への真心を眠らせることなく向き合う時、
夫婦としての喜びを更に紡ぎあうことができるはずです。
パートナーが自分をどう思うかを探るよりも、こちらから歩み寄り、近づく努力をすることで、
何歳になっても、良い夫婦関係を築くことは可能でしょう。