年齢を重ねるにつれて、人は自身の健康に、少なからず不安を感じるものです。
特に現代では、健康や病気に関する情報が溢れています。「こうした生活が危険」「○○は重大な疾患の予兆」
といった情報に触れると、その不安はさらに増します。また、高齢者の介護問題などを特集したテレビ番組などを目にすると、不安はなお高まるものです。
「健康は他から与えられるものではない。自分の努力で築き上げていくもの」と語るのは、長年、純粋倫理を
学んでいるKさんです。
Kさんは、女手一つで六人の子を育てる母を助けるため、中学卒業後、玄界灘の漁船に乗り込んで、
飯炊きとして働き始めました。
十九歳の時、作業中に大ケガをし、「第五脊椎分離症」と診断され、左の骨盤の骨を切り取って脊椎に接ぐ
大手術を受けました。術後七カ月間上半身をギプスで固定される生活を余儀なくされ、その苦痛と不運を
嘆いていたKさんでしたが、ある時から、〈このままではダメだ〉という思いが湧きあがるようになりました。そして〈きっと逞しく健康な体になるぞ〉と自分に言い聞かせながら、努力してきました。
やがて転職し、家庭を持った後は〈子供のためにも長生きしたい〉〈体に良くないことはしない〉という
信念を貫き、タバコも酒も一切やりませんでした。
「たとえ人からつきあいが悪いと言われようとも、自分で自分を大切にするしか幸せになれる道はない。
健康に良いことは積極的に取り入れ、良くないことは断固としてやめる勇気を持つことです」と語ります。
そして、八十代になる現在も、健康を維持しています。
Kさんのようにストイックに自分を律するのは簡単なことではありませんが、年相応に体調を管理し、
努力することは、健康維持のために欠かせないでしょう。また、病気を必要以上に恐れたり、痛い箇所を
目の仇(かたき)にして「この病気さえなければ」「ここさえ痛まなければ」などと嫌わないことも大切です。
年齢とともに、体にきしみが生じるのは仕方のないことです。病気やケガは、必要な手当てや治療をした上で、次の段階として、仲良くつきあっていく知恵を身につけましょう。
また、「自分の健康は自分でつくる」という意識とともに、生かされて今があることへの感謝を忘れずに
いたいものです。先週の紙面では、年を取ることの心がまえとして、「体の具合が悪くなったら、まず
〈永い間ごくろうさんでした〉とその箇所に感謝といたわりを持つこと」という丸山竹秋
(倫理研究所前理事長)の言葉を紹介しました。
今の自分の生があるのは、手や足など表面に見える部分のみならず、胃や腸、心臓など、普段は意識すること
のない器官が休まず働き続けてくれているお陰です。体があるから、私たちは人生の様々な出来事を経験
できるのです。この事実に深く思いを寄せて、「これまでよく働いてくれたね」と、無償で働いてくれる体を
労いましょう。年齢を一つ重ねるごとに、生かされていることへの感謝も一つずつ深めていけるような私たち
でありたいものです。