喜働の社風をつくるのは誰?

今日一日、朗らかに安らかに喜んで進んで働きます――。

これは経営者モーニングセミナーで斉唱する実践の決意です。

斉唱なら誰でもできますが、実行するのは簡単ではありません。自分に不都合なことが起きても、朗らかに、喜んで、行動できるでしょうか。不足不満や責め心に支配されている時は、いかにして心を転じるかが、自己成長を促し、現状を突破する鍵となります。

W氏は税理士事務所を開業しています。精力的に働き、開業十年で、目標だった売上一億円と社員十名を達成しました。当時はすべてが順調で、毎日が楽しく、「オレはすごい。何でもできる」と思うようになっていました。

絶好調だった矢先、ある社員から退職願いが出されました。〈自分についてこない社員はいらない〉と気にしませんでしたが、その後七カ月間、毎月一人ずつ退職していくのです。空っぽの席が増え、仕事の負担がのしかかる中、日増しに責め心が強くなります。やることなすこと空回りしていきます。一時は社員が数名になり、事務所を閉めることも考えました。

その頃、仲間から勧められて、富士高原研修所での経営者倫理セミナーを受講しました。そこで「傾聴(けいちょう)」と呼ばれる講義があり、積極的に相手の話を聴く実習の中、これまでいかに自分が人の話を聞いていなかったかに気がついたのです。

また、思い通りに動かない社員にイライラを募らせていたことに思い至りました。社員を叱責し、やる気を削いていたのは自分だった、事業がうまくいった慢心の中、自分がいかに我の強い人間であったかを反省したのです。

帰社後、まず社員への挨拶を率先するようになったW氏。そして、壁に向いていた机を社員の方に向け、話しかけられた時は手を休めて、顔を向けて話を聞くようにしました。すると、これまで「ダメなヤツばかり」と思っていた社員が愛おしく思えてきたのです。

また、会話の中で、労いの言葉が自然と口をつくようになりました。コミュニケーションが深まるにつれて、社員に仕事を任せられるようになり、自身の仕事も喜んでできるようになりました。やがて、社内全体が、朗らかな空気へと変わってきたのです。

現在は開業十年時より売上、社員数ともに増え、グループ展開をするまでに事務所は大きくなりました。以前より取り入れていた「活力朝礼」も、社内に委員会を立ち上げ、社員主導に切り替えました。今では社員自身が「気づく力」を養う場として活用されています。「よい人材が育っておられますね」と、お客様から褒められる機会も増えたといいます。

「〈自分がつくり上げた〉と思っていた職場が、実は皆のお陰であることに気づくことができました。経営者の役割は、社員が朗らかに喜んで働ける職場にすることだったのです」とW氏は語ります。

社員が喜んで働ける「喜働」の社風をつくるのは、会社の中心者である経営者の心なのです。