痛みに耐えてよく頑張った。感動した。おめでとう!」
平成十三年、大相撲夏場所十三日目の取組で、力士生命にかかわるほどの重症を負った貴乃花関。横綱としての矜持を守るため、休場の勧めを頑なに断り、強行出場を続けました。
そして、千秋楽の優勝決定戦では、鬼気迫る闘志で相手力士を退け、満身創痍の中、見事に賜杯を手にしました。冒頭の一節は、取組後の表彰式で、当時の小泉純一郎首相が発した言葉です。
この言葉が今でも語り継がれるのは、力士生命を賭けて大一番に臨んだ横綱に対し、観る者すべての心を代弁したような、まっすぐで力強い言葉だったからでしょう。
他方、同じスポーツの世界でも、不用意な一言が相手を傷つけ、困惑させ、時には激しい怒りにさえつながることもあります。
かつて、プロ野球の歴史で、世紀の大逆転劇といわれた日本シリーズがありました。四戦先勝すれば日本一という戦いにおいて、初戦から一気に三連勝したチームの選手が、インタビューで「(相手チームは)同一リーグの最下位チームより弱い」という趣旨の発言をしてしまったのです。
その言葉を伝え聞いた相手チームは、大いに奮い立ちました。そして、怒涛の四連勝で相手チームを土俵際でうっちゃったのでした。まさに「口は災いの元」。相手への礼を逸した一言が、そのまま跳ね返ってきたのです。
言葉は時として物事や人の精神状態を劇的に変える力を持っています。そして、発する言葉次第で状況が好転することもあれば、悪循環に陥ることもあるものです。
かつてAさんが勤めていた職場には、いつも重苦しい雰囲気が漂っていました。営業成績の芳しくない社員に向かって激しく叱責をする上司がいたからです。
その後、Aさんは体調を崩して、職場を離れることになりました。一日も早い職場復帰を目指したAさんは、これまでの職種とはまったく違った飲食関係の仕事に就くことになりました。
Aさんは、その職場の雰囲気に驚きました。社員が明るくイキイキと仕事をしているからです。そして、先輩社員たちの言動に、ある共通点を見つけたのでした。
それは明るい言葉を、笑顔で、一日に何度も口にしているのです。その象徴的な言葉が「ありがとうございます」でした。
接客や電話応対、社員同士の会話で交わされる言葉が職場を朗らかにし、Aさんもいつしか「ありがとうございます!」が口癖となって、充実した生活を送れるようになりました。
消極的な言葉や人を責める言葉が飛び交う環境では、やる気も失せていくものです。反対に、励ましやプラスの言葉、明るい言葉が交わされる環境で、人は俄然やる気になっていきます。言葉の通りに境遇は変わるからです。
今日もプラスの言葉を発し、自分のみならず周囲をも明るくしていきましょう。口は「幸い」の元でもあるのです。