人と人とのコミュニケーションにおいて、自分の意思を伝える言葉は、口から発せられます。「目は口ほどにものを言う」というように、目や表情からその人の意思を察することはできますが、日常の意思の疎通は言葉によって行なわれます。
さて、世界には様々な言語があり、それぞれの国や地域文化の根幹をなしています。言葉そのものも文化だといえるでしょう。
また、人間は学習によって言語(国語)を習得しなければ、他者とのコミュニケーションが取れないばかりか、きちんとした思考や豊かな感情、他者の喜びや悲しみに共感するといった高度な情緒は育ちません。言葉は単に意思の疎通のための道具なのではなく、他者との「つながり」を育みます。
「人間にとって最も恐ろしいものは孤独である」といわれるように、幸福な人生を送る上で、言語を介した他者とのつながりは欠くことのできないものでしょう。
ところで、歩き方などの起居動作に癖があるように、口から発する言葉にも癖があるものです。また、感情が高ぶって、つい口をついてしまう言葉もあります。あるいは、酒の席などで調子に乗って、要らぬ言葉を発してしまうこともあるでしょう。「口は災いのもと」を体現してしまった苦い記憶は、多くの人が持っているのではないでしょうか。
言葉は、人を生かしも殺しもする強い力を持ちうるものです。多くの人と関わりを持ち、共に働く社員を育てなければならない経営者であれば、人を傷つけかねない言葉を戒めると同時に、人を育て、活力ある組織の基盤となる「つながり」を生み出す言葉を発していきたいものです。
その第一歩は挨拶でしょう。
ある職場では、毎朝、出社する社長の機嫌に戦々恐々としていました。社員同士で「今朝の社長のご機嫌天気予報」なるメールが交わされていたのです。社長の機嫌のバロメーターが挨拶でした。言うまでもなく〝天気〟が荒れることが多かったからこそ、そうしたメールが社内を飛び交うようになっていたのです。
次第に職場の空気は重くなりました。報告・連絡・相談が滞り、クレームなど重要事項の報告が遅くなってさらに事態が悪化することも頻繁に起こるようになっていきました。
その後、この社長は縁あって倫理法人会で学び、職場改善のために、自ら挨拶の実践に取り組みました。やがて職場は明るく、風通しがよくなり、結果、業績も改善したのです。
挨拶の実践ポイントは、「先手で」「明るく」「心を込めて」という三点です。立場の上下に関わりなくこの三点を徹底し、相手に対する敬意や慈しみの心が養われていけば、周囲は驚くほど変わることでしょう。
口から発する言葉の力は、心の表われです。挨拶を見直し、リーダーとしての心に磨きをかけようではありませんか。