話し上手は聞き上手と言われます。「どうしたらうまく話せるだろう」という悩みを持つ人は、まず人の話をよく聞くことに努めてはどうでしょう。聞き役に徹していると、返答するべき話材は必要なタイミングで浮かぶものです。聞き手としてのレッスンを重ねた延長線上に、自分の思いを表現できるようになります。
倫理法人会では『職場の教養』を活用した活力朝礼を推奨しています。輪読後にリーダーが感想を述べ、朝礼参加者は、感想に耳を傾けます。他者の感想を聞いていると、〈なるほど、そんな捉え方もあるのか〉〈普段の職場生活からは窺い知れないユニークな人柄を発見できた〉といった、様々な感慨が出てきます。
実は、この「感想を聞く」というところにも活力朝礼の特色があります。息を吸い込んだら自ずと呼気が行なわれるように、聞き役を担うことで、自分にも何か事が起こせるのだという気力が湧き立ちます。他者の存在を受け止めることで活動する力が湧き出すのです。毎朝の「聞く」レッスンで、活力を充電しましょう。
聞き方のポイントを二点挙げると、一つ目は、ありのままに、そのままに受け止めること。〈そんなことを言ったって……〉とか、〈話すことと普段の態度が違うじゃないか〉などと色眼鏡をかけた捉え方をせず、「ただ、さながらに」聞くことが要です。
二つ目は、敬意をもって聞くこと。尊敬の念を忘れず、相手を尊ぶ心の姿勢が、聞き方上手な自分づくりを可能にしてくれます。
次のエピソードは、人間相手の話ではありませんが、参考になるので紹介します(『「いのち」の輝き』丸山敏秋著/新世書房より)。1960年代のイギリスの女性音楽家レン・ハワードは、小鳥たちと暮らした記録を著書に残しています。
「私はいつも私の小鳥たちに人間同士が話すのと同じ言葉で彼らに話しかけています。なぜこうしてきたかといえば、小鳥たちは私の口調によって、間もなく会話の意味が幾らかわかるようになるからです。小鳥との交わりを楽しむだけでなく(中略)深い交わりをとおして小鳥たちの心をいっそうよく理解出来るようになっています」
彼女は、親しい鳥たちの「言葉」がわかったそうです。それは、鳥たちに〝友人〟として接し、持てる時間すべてを投入した、長く深いコミュニケーションによってもたらされたものでした。
人間同士の方が、言葉の奥に潜む気持ちを忖度するなど、かえって難しいかもしれません。しかし、たとえどのような相手の、どのような内容であっても、何かを学ぼうとする積極的な姿勢が互いの心を開くことに繋がります。
倫理研究所の創設者・丸山敏雄は、「ありのままに、淡々として私情私意、我情我欲を挿し挟まずに、たださながらに聞く、これがほんとの耳である」と指摘します(『清き耳』)。「聞く耳」を育てることが 話し方の向上も含めた、より良い対話や心の交流も生み出していくに違いありません。