事業は人なり心が決め手

出興産の創業者・出光佐三氏は、あるインタビューで中小企業の強みと弱みについて問われました。

氏は、中小企業の強みとして、「人が経営しているから、人が一番力を発揮している」「いかなることも自由にやれること」、一方、弱点は「経営者がわがままをすること」「資金が足りないこと」だと指摘し、「わがままを出さないためには、相手の立場になって考え、相手の声を聞くこと」だと語っています(*1)。

経営者の「わがまま」を戒めるような教えは昔からありました。江戸時代の豪商・三井高平が制定した『宋竺(そうちく)遺書』には、「奢りの気持ちが起きれば家業がおろそかになる。そんなことで商売が繁盛する筈がない」「相手の心を汲んだ上で、自分が何をすべきかよく考えて事を運べばうまく行く」と記されています(*2)。

同時代に商人道を説いた石田梅岩は、「主人がわがまま勝手をつくし、遊びに興じて仕事をせず家業に損失がでるときは、主人に意見を述べ、改善するよう改めさせること。それでも困難な場合は、隠居させること」と、仕える者の立場から説きました(*3)。

井原西鶴は、「経営者が美食に走るようになる」「着物が贅沢になる」「見栄を張った寄付」「興行等のスポンサーを引き受ける」「宗教に必要以上のお金をかける」など、分を超えた生活に溺れて家業が潰れていく様を小説に描き、欲に絡まれていく人間模様からわがままを戒めています(*4)。

最近では、『しくじる会社の法則』の著者・高嶋健夫氏が、経営の悪化を招く経営者の共通点を挙げています。

例えば「高級外車を乗り回すようになる」「言葉の端々に有名人が登場し、見栄を張るようになる」「社員が気安く近づけない」「なぜか眼鏡が曇っている」など、氏は数多くの中小企業への取材を通じて、「倒産する会社には類似したところがある」と指摘します。いずれも、経営者の心の状態を投影したものといえるでしょう(*5)。

 

「わがまま」は気づかないうちに心に積もっていきます。その心のありようが、お金の使い方や日常の暮らしぶりに現われ、社内にも反映して、企業の盛衰を分かつのかもしれません。

倫理法人会の役職者は、モーニングセミナー前の役員朝礼で、「役職者の心得」を斉唱します。その第一番目は、「参加者に喜んで頂ける、お世話役に徹します」というものです。お世話役に徹するとは、我を抑えて、心の内のわがままを陶冶していくことにつながります。

週に一回でも、相手の立場に立つトレーニングを行ない、心の整理整頓をすることで、わがままが抑制され、逆に「強み」が活きてくるのではないでしょうか。「事業は人なり」といわれます。経営者の心のありようが決め手です。

 

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