プレッシャー

プレッシャーがあるからこそ、人生はおもしろく、張り合いもあり、愉快でもある。

圧力があるから、それに耐えるという張りが出てくるのであり、圧迫があるから、それを跳ね返そうという気力が湧く。威圧感があるから、それを利用したり、また抗しようとするこちら側の姿勢も強く出てくるのではないか。

朝起きるのは寒い。温度のプレッシャーだ。それではいつまでもぬくぬくと寝ていて、それですむか。身体を動かすには物理的な力がいる。それもプレッシャーだ。動かさないですめば、一番楽なのだ。しかしそれでは筋肉がたるんでしまう。朝寒くてもサッと起きて、寒さのプレッシャーを排し、洗面をし、仕事にかかる。そこにまず生きる張り合いが出てくる。いつもらくらくとしていたら、精神も身体もブヨブヨになってかえってダメになってしまう。

日常生活の中で自然に作られてくるプレッシャーはいくつもある。親子、夫婦関係からくるもの、嫁姑、財産相続、病気、満員電車など数えあげればきりがあるまい。それに職場や学校など仕事や勉学の上でも、いくらでもプレッシャーは出てくる。

人間社会とはさまざまなプレッシャーが、いつでも起こり、苦しみ、悩むようになっているのだ。問題はそうしたプレッシャーを、いかに乗り越え、いかに活用して人生に深い喜びをもたらす工夫をし、前進するかである。毎日のように生ずる大、小のプレッシャーを、いかにわが身にこなして、養分に転ずるかである。

難しい時もあろう。押しつぶされそうになる時もあろう。しかし〈問題はここだ。このプレッシャーから英知を導き出すのだ〉と心にきざんで前進することである。

分をこえた大借金を背負って店もつぶれ、その日暮らしとなった。屋根裏に住み、食う物にも事欠くようになった。しかしまだこの身体がある。決心して清掃の仕事を始めた。まず道路のゴミを集め、落ちていたビニール袋につめ込んで「ありがとう、ゴミさんよ」と頭を下げる。それを実行しているうちに、見ていた人があって「うちの荷物を向こうに運んでくれ」と頼まれた。それがきっかけで正式に職につき、自殺をせずにすんだのである。似たような話はいくらでもある。

東京九段下でタチンボーという荷車押しをやって、それからそれへと仕事にありつき成功した大谷米太郎氏(一八八一~一九六八)の苦心談を知らない人は多い。今を時めくホテル・ニューオータニを興(おこ)したのは、この大谷氏に他ならない。

普通一般にはプレッシャーを押しのけようとしても、なかなか難しい。現に、ここに、こうしてあるプレッシャーなのだから、むしろそれを暖かく包み込んで、「ひとつ、よい知恵を授けてくれないか」と頭を下げて、そのプレッシャーに教えを乞うてみることだ。将来がどうなるか、そんな不安は後まわしだ。プレッシャーこそ、もっともよい先生なのである。

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