努力と信念で運命を切り開く

人の一生は重荷を負って遠き
道を行くが如し。急ぐべからず。不自由を常と思えば不足なし。心に望み起こらば困窮したるときを思い出すべし。堪忍は無事長久の基、怒りは敵と思え。勝つことばかり知りて負くるることを知らざれば害その身に至たる。己を責めて人を責めるな。及ばざるは過たるより勝れり――。
この言葉は、徳川家康の遺訓として伝えられています。家康は激動の戦国時代に生きる中で、数々の決断を迫られました。そして、苦労に苦労を重ね、念願であった天下の統一を実現したのです。
経営者も一国一城の主です。組織のトップとして会社を守り、社員を守り、家族を守っていく立場にあります。組織の規模は違えども、家康が遺訓に込めたトップの辛苦に、共感できる方も多いのではないでしょうか。
企業は「変化対応業」です。時代も、お客様のニーズも、日々刻々と変化し続けています。その変化を敏感にキャッチし、戦略・戦術

を立てて、そのつど経営責任者として決断を下さなければ、企業として生き残ることはできません。
製造業に就くN氏は、二十三歳の若さにして、尊敬信頼していた創業者から、企業の生死をかけた大きな新規事業を託されました。
N氏は、創業者の思いを何とか叶えたいと知恵を絞り、試行錯誤を繰り返しました。そして、単身海外へ赴き、技術習得に努め、多額の融資を受けて、最新鋭の機械を導入する決断をしたのです。
しかし、いくら融資を受けて最新の機械を導入しても、取引先に恵まれなければ意味がありません。氏は、大手メーカーや問屋に認められるだけの技術の向上に励みながら、血眼になって全国で営業活動を続けました。その結果、国内トップメーカーとの取引が成立し、現在もなお、斬新な発想で新しい商品開発に努めています。
N氏はこのように語ります。
「社員も多額の設備投資に同意し、決断を後押ししてくれました。経営者には、会社の発展のために何

が出来るかを打ち出し、社員と共有しながら実行していく役割がある。今の当社があるのも、あの時にトライしたお陰だと思います」
N氏は決して運が良かったのでも、好機に恵まれたわけでもありません。運や好機は誰しも平等に与えられています。それをつかめるかどうかは、個人の経験や体験に裏打ちされた感性(アンテナ)によって変わるのでしょう。困難やプレッシャーにもめげずに目的へと突き進む、強い信念と命がけの努力が天に認められ、N氏は強運と好機を獲得したのです。
「目の前にきたあらゆる機会をとらえて、断乎として善処する人、一度こうと目的を定めたら、終始一貫やってやってやりぬく人、これが世に言う成功者である。(略)運命を切り開くは己である。境遇をつくるも亦自分である。己が一切である。努力がすべてである。やれば出来る」
(丸山敏雄著『万人幸福の栞』)
何事にも動じない固い信念と、成功するまで諦めずに取り組む強い姿勢を貫きたいものです。