アイネバー ミート サムライ
(侍に会ったことはない)
この言葉は、イタリア1部リーグ・セリエAの名門ACミランに移籍した本田圭佑選手が、入団会見の際、「日本のサムライ魂とは?」という質問に対して、ジョークを交えた英語での回答です。
その後、「日本男児は決してあきらめない強い忍耐力としっかりと規律を守る精神力を持っています。それは私も常に大事にしたいと思っていますし、そうしたスピリットをピッチで示したいと思います」と続けました。
世界最高峰といわれるリーグでプレーすることを決断した本田選手。鳴り物入りの入団セレモニー後、多くの取材陣を前に、自らの熱い想いを堂々と吐露した会見を覚えている方も多いでしょう。
新たな環境で、常に結果を求められるプレッシャーは想像を絶するものがありますが、出場二戦目でゴールを決めるなど、存在感を強く示し、早くもチームの中心選手として活躍しています。
入団会見での「サムライ魂」と同様の意味合いで使われる言葉に「武士道」があります。この言葉が広く世界で知られるようになったのは、新渡戸稲造がそのものズバリ『武士道』という本を英文で刊行した明治三十三(一九〇〇)年からだといわれます。
出版の経緯は、ベルギーの法学者ラブレーに「日本には宗教教育がないのに、どうやって子供たちに道徳教育をするのか」と問われた際、即答できず、その答えとして「武士道」という伝統的な道徳心が日本にはあることに思い至り、世界に発信するべく英語で刊行したといわれています。
われわれ一人ひとりは「個」の人間として、それぞれの人生を歩んでいます。しかし、自分がここに存在する理由を遡ってみると、そこには数え切れないほど多くの祖先たちが、与えられた環境の中で必死に懸命に生きてきた足跡と、有形無形のさまざまな「恩」に向き合うこととなるでしょう。
四百万部を越えるベストセラーとなり、映画化もされた百田尚樹氏著の『永遠の0』という小説も、自身のルーツを辿りつつ、自らの人生へしっかりと向き合おうとする、現代の若者の心情が鮮やかに描かれています。
「食物も、衣服も、一本のマッチも、わが力でできたのではない。大衆の重畳堆積(つみかさなった)幾百千乗(いくひゃくせんじょう)の恩の中に生きているのが私である。このことを思うと、世のために尽くさずにはおられぬ、人のために働かずにはおられない」 (『万人幸福の栞』十三 丸山敏雄著)
自らのDNAに刻まれた先人たちの良き素養と、多くの「恩」が自覚されると、私たちの身体には無限のエネルギーが沸いてきます。そのエネルギーは、本田選手が日本男児の精神を語ったように、大きな決断をする際に自分を支える大きな力ともなります。
先達から預かった襷(たすき)に、さらに良き生き様を刻み込み、次の世代へ、子孫たちへ受け継ぎたいものです。