「地球の悲鳴が聞こえる」とは、本のサブタイトルにもなり、ここ数年叫ばれ続けてきた言葉です。文明の大転換期といわれる昨今、私たち人間は「地球の悲鳴」にもっと耳を澄ませる必要があります。
すでに限りある資源は底が見えはじめ、異常気象が相次ぎ、地球が私たちに警告を与えているように思えてなりません。
倫理研究所の目標理念のひとつに「地球倫理の推進」が挙げられています。その取り組みとして沙漠の緑化事業があります。
それが倫理研究所創立55周年を記念して始まった、中国内蒙古自治区クブチ沙漠での「地球倫理の森」創成です。これまで、延べ千七百名余りの参加者が三十万本以上の樹を植林してきました。
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大好きだった父親を亡くしている神奈川県在住のHさんは27歳の保育士です。倫理研究所の沙漠緑化隊に参加し、かけがえのない経験をすることになりました。
環境問題に取り組んでいた父親を見て育ってきた彼女は、自分もその影響を強く受けていると自負していました。しかし、地平線まで続いている沙漠を目の当たりにし、過酷な環境の中に身を置いて、〈自分がいかに恵まれた環境に甘えて生きてきたのか〉ということを思い知らされたのでした。
〈沙漠で暮らす人たちは、決して豊かとはいえない生活状態。それでも目は輝き、笑顔で生活している。自分は小さなことに腹を立て、多くを求めてしまう。地球には自分と正反対の生活をしている人たちがたくさんいる〉という事実に愕然としたのでした。
〈今まで私はなんてわがままだったんだろう。よし、これからは自分の思い通りにいかなくても笑顔でいよう。植林は大変だけれど、周りのメンバーを励ませるように大きな声で明るく作業しよう〉と心に決めたのです。
するとその夜、大好きだった父親が初めて夢に現われたのです。植林する自分を、何もしゃべらずにニコニコと見つめているのです。Hさんは目覚めた時、涙を流していました。自分のことはさておき、いつも人のためにという生き方をしていた父親が、自分の姿を喜んでくれていると感じたのです。
沙漠の地で今までになかった明るく広い心を持つことができたHさん。日本に帰ってきてからも、頭には常に「どういう行動をとったら、地球と父親は喜んでくれるだろう」という考えを持つようになりました。そして沙漠での経験を、保育園で他の先生や子供たちに伝えている日々です。
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地球規模の様々な問題は、現況ではとどまるところがありません。しかし、私たちが自分のことだけではなく、地球環境レベルにも目を向けていく時、環境の改善は多少なりとも前進します。また自分自身も成長し、豊かな人生へと昇華していくのです。
地球の保全なくして人類の輝く未来はありえません。地球倫理の推進を計り、小さなことであっても、自分にできることを続け、水と緑の潤いに満ちた地球を取り戻す働きをしていきましょう。