倫理普及による体験は、時に理屈や常識を超えた形で現われる場合があります。そうした体験は揺るぎない信念を築きあげるとともに、経営上のヒントに繋がるともいわれています。
普及の鬼と周囲から評されている某単会のK会長は、数多くの体験を残し、人生をよい方向へと自ら導いています。したがって自然と普及にも力が入り、特異な体験も生じています。その一つが、普及先で「車が炎上する」という不測の事態が発生したというものです。
K会長は、何度訪れても様々な理由をつけて話をうやむやにする女性社長のところに、今日こそはハッキリとした返事をもらおうと訪問しました。申込書にサインをするか、しないかという話までは進むのですが、例のごとく言い訳が始まるのでした。
「この年齢になって、もう勉強は必要ない」「夫がなかなか許してくれない」「父の具合が悪くて」等々。しばらくして訪れると「父が亡くなったので、落ち着いてからにしてもらえますか」。その通りにすると「初七日があったから四十九日が終ってからでないとねぇ」と話に終わりがありません。
いい加減にしてくれと、K会長はついに堪忍袋の緒が切れました「もう何度もガソリンと時間をかけて来ているのだから、入るか入らんか、今決めてくれ!」と強く迫ったところ、その女性社長が窓越しを眺めながら「Kさん、車が燃えている!」と叫んだのでした。
〈なにを大げさな。話をごまかして〉と腹の中で思ったK会長。振り向きもせず、雨が降って大急ぎで駆けつけたのでボンネットから湯気でも立っているか、タイヤから水が蒸発している程度だと思いました。しかし、女性社長の顔は真剣です。振り返って窓越しの風景を見たとたん、我が目を疑いました。
ボンネットから確かに火が出ているのです。あわてて消防署に連絡を入れようとしましたが、そこは小学校の通学路であったため、まずは登校する児童の安全を確保しなければと急ぎ誘導しました。その間に女性社長は消火活動に入り、ほどなく鎮火。奇蹟的にも車の損傷は少なく、走行にも問題はなく、事なきを得ました。
ホッと胸をなでおろし車の下を見ると、雑巾のようなものが燃えカスで落ちています。ここに来る前に、ガソリンスタンドでオイル交換をしたのを思い出しました。その時に取り忘れたのであろう雑巾が発火したのでした。
女性社長は「Kさん、あなたはツイている。もし、ここに寄らず会社に向かっていたら、大変な騒ぎになっていたか、命を失っていたかもしれない」と言います。そうかもしれないと思っていると、更に「よし決めた。ツイているあなたの言うとおりにしましょう」と、あれだけ難儀していた入会に結びついたのです。
この体験は、普及体験として短絡的に扱うには難しい事例かもしれません。しかしK会長本人は、〈自分はツイている人間かもしれないと実感し、見えない何かに守られていることを改めて感謝することができた〉と強調します。
倫理実践には、理屈なしに本気でやらなければつかめない何かが存在するのです。