食品荷受問屋を営む田島社長。今まで自家用車はガソリンスタンドで給油と一緒にいつも洗車をしてもらい、一度も自分で掃除することはありませんでした。その田島氏が、縁あって倫理法人会に入会した時のことです。同会主催の講演会で「物は生きている」という言葉を初めて耳にしました。
「感謝を込めて車を掃除すると、事故がなくなり、故障も少なくなります」という話に、車への感謝など今まで考えもしなかった氏は非常に驚きました。交通事故とは、あくまで運転技術の未熟さが引き起こすものとしか考えていなかったのです。しかし「そんなバカな話があるものか…」とバッサリと切り捨てられない思いにもなったのです。氏自身が過去に何度も交通事故を起こした苦い経験があったからです。
田島氏は一念発起し、毎日の洗車・掃除を実践し始めました。どんなに夜遅くなっても、まずは車の掃除を欠かさない毎日となり、二十年余が経過しました。実践をしていると、いろいろと気づかされることが多くあったようです。氏は経営者として当たり前のことや大切なことに、今まで気づかずにいた自分だったと振り返ります。
田島氏の会社には、営業車だけでも二十五台ありますが、食品を扱う車がいつも汚れていた事実に気が回らず、そのまま営業に走らせていたのです。お客様回りの際、自社の車が汚れていては悪いイメージを与えることに、不覚にも初めて気がついたのです。
早速、社員に「車を各自で掃除・洗車するように」と指示したのです。すると、新入社員のA君(22歳)が、翌朝から七時に出勤し、自分の車をはじめ先輩たちの車も掃除し始めたのです。
「おはようA君、毎朝頑張っているな」
「おはようございます。社長、私は車の掃除と営業力とのつながりが、まだよく分からないのですが…」
彼の率直な問いかけに、「お客様回りの時、君がどんなに上手く商品説明をしても、乗ってきた車が汚れていたら、衛生管理面を含めた会社全体のイメージを悪くしてしまうだろう」と社長は諭しました。
「お客様は、いろいろな眼を持っている。その眼を通して様々な判断をされる。だから車をピカピカにしておくことも、セールスを後押ししてくれる大きなポイントになり得る。掃除ひとつとっても疎かにできないのだよ」
A君は今までに遅刻も多く、車での事故もあったといいます。また営業成績の達成率は、毎月80~90%だったのです。新人としては健闘しているかに見えますが、会社側は比較的やりやすい担当エリアを任せていたのです。
それから二カ月後、A君は初めて月の成績が目標を上回る105%を達成したのです。田島社長の言葉に、A君は営業マンとして大切なことを教えてもらったのでした。
本人はもちろんですが、田島社長も社員の成長を自分のことのよう嬉しく思いました。氏自身も車の掃除を始めてからは、一度も事故を起こしていないのです。「物はこれを愛し、大切にする人のために働いてくれる」との純粋倫理の言葉を、公私ともにこれからも大切にしていきたいと願う田島社長です。