「高め」「早め」でちょうど良し

「一尺の堀を越えんと思わん人は、一尺五寸を越えんと励むべし」
これは浄土宗の開祖・法然の言葉です。目標を設定したならば、実際にはそれより遥かに上を目指して努力しなければ、目標は到達しないものだという意味です。
に ロンドン五輪の予選を兼ねた体操の世界選手権が東京で開催され、十月十六日に閉幕しましたが、内村航平選手が史上初の個人総合三連覇を果たしました。
立花泰則監督はその大きな要因として、「内村的思考」を挙げています。「技の高難度化が進む中で失敗はつきものとも言えるが、実力が拮抗した中国を上回るには、失敗を減らすしか道はない。ヒントは内村の練習過程にあると思う。内村は数年後の自分の姿を描き、それを実現するために必要なことを考えた上で、他を圧倒する練習量をこなす。まねをするのは難しいが、そうした『内村的思考』を共有し、みんなで継続して努力したい」と語ったといいます。
多くの観客、そして世界の選手が注目する中でプレッシャーを跳ね返し、百%の力を出すには普段から百二十、百五十%の練習をしておかないと、本番で実力は発揮できません。よく「本番に弱い」という人がいますが、それだけ練習量や努力が足りなかっただけということに他なりません。
当然のことですが、結局はスポーツも事業も個人の人生も、当人の努力次第ということです。しかし、ただ「努力」といっても、どこを目標にしているかで違い、「より上を見ての努力」「より先を見ての努力」で成果は大きく変わってきます。
出版関係の仕事に携わるK氏は、原稿提出の締め切りを長年にわたり厳守していましたが、ある時、執筆予定日に高熱を出し寝込んでしまったのです。七転八倒しながら何とか締め切り間際に原稿を提出したものの、自分の計画の甘さを猛省しました。
「何事も締め切り期日は予定より早く設定しろ。『ちょうど良いは危うし、早めでちょうど良し』だ。予定や計画は、スムーズに事が運ぶことを想定して立てる。世の中は順調にいかないことのほうが多く、思い通りにはいかないものだ。特に今は世の中が激変している。何が起きるかわからない。少しでもトラブルやアクシデントがあると計画は崩れ、目標には到達しない。『アクシデントのためにできませんでした』は理由にはならない。期日や時間に余裕を持つと、心にも余裕が生まれ、失敗しないものだ。余裕がないから焦って失敗する。明日できることでも、今日のうちに処理できるならば今日やれ」
K氏はそう先輩から諭されたのです。
ホンダ技研工業の創業者・本田宗一郎氏は「発明考案にしても、人より一分でも一秒でも早ければ特許になる。すべてはスピードではないですか。スピードを否定したら、発明的創意工夫もないし、そこにウイットもないはずです。努力はしたが結果は駄目だったでは、努力したことにはなりません」という戒めの言葉を遺しています。
「目標は高め」「計画は早め」で所期の目的を完遂していきましょう。