産経新聞「小さな親切、大きなお世話」のコラムに、作家の曽野綾子さんが「ふだん私はできるだけ電車で外出しているのだが、(中略)精神的疲れを感じてぐったりすることがある」との一文を寄せています。内容は、電車の中での乗客の服装や化粧のことなど、ほとんど怒りに近いもので占められていました。
電車内の一部の乗客に対し、腹立たしい思いをするケースがあります。例えば、優先席付近では携帯電話の電源を切るよう協力を願うアナウンスが流れますが、優先席に座らずにすむ乗客が堂々と通話やメールをしています。一人が使えば隣の乗客がという状態です。注意をしたことによる乗客同士のトラブルも多くあります。モラルの低下が嘆かわしい状況にある日本なのです。
倫理法人会の会員企業では、倫理研究所が推奨する「活力朝礼」を導入するところが多くあります。朝礼の中で自社の目標を確認し、挨拶実習などを行なうことで、社員の資質の向上を図ります。また『職場の教養』を活用することにより、チームワークを向上させ、朝礼参加者のモラルアップを喚起する企図です。
日本全国の企業がこの活力朝礼を実施すれば、一人ひとりのモラル向上に資することができるとの思いで、倫理法人会は各地で倫理を広く紹介しているのです。経営者をはじめとする全社員が、『職場の教養』の最後にある「今日の心がけ」を社会で実行すれば、前述の腹立たしい光景も少しは減少するはずです。
「今日の心がけ」を飾り言葉や絵に描いた餅にしては、実にもったいないのです。その日の職場生活での心構えとして、その延長として今日という一日が終わるまで、「今日の心がけ」を実行する覚悟を持つならば、世の中は明るく暮らしやすいものになるでしょう。会員企業によっては「今日の心がけ」を大きな文字にして社内に掲示し、実際の行動に移すよう強調・確認しているところもあるほどです。
倫理研究所が推進する「日本創生」は、それを最上段から声高に叫んだとしても実現は困難です。倫理法人会会員企業に働く人々が、多様な「心がけ」を率先して実行することで、常識に満ち、希望にあふれる未来への道が拓けるのです。
倫理運動の創始者・丸山敏雄は、著書『万人幸福の栞』に「理屈なしに行なってください。きっと変わった結果が出てきます。実験されて、正しい事がおわかりになれば、隣人に知らせ、知人に伝えて(中略)、新しい世、喜びの世の中を生み出すことに力をあわせていただきたい」と訴えています。
また中国の儒学者・朱子は「心が正しいものになって、そののち身が修まる。身が修まって、そののち家が斉(そろ)う。家が斉って、そののち国が治まる。国が治まって、そののち天下が平らかになる」(『大学章句』)と遺しています。
物事を為すには「隗より始めよ」です。美しき日本、そして美しき日本人の構築を私たちが望むならば、まず自らを律する精神と身体を強く維持していきましょう。