「最も優れた人々は、苦悩を突き抜けて、歓喜を獲得するのだ」。これはドイツの作曲家・ベートーベンの言葉です。
ベートーベンは聴覚の障害に苦悩しながらも、数々の名曲を世に送り出しました。日本では年末恒例の「交響曲第九番」の合唱が有名です。この曲は「苦悩から解放され歓喜を得る」という構成になっているそうです。
苦難を解決したり、悩みを解消したり、あるいは願いを叶えるには、当然のことながら自分自身が相応の努力をしなければなりません。努力とは自らの意志の力で向上することで、要は「自らが変わる」ことです。
「苦難が解決した」「悩みが解消した」「願いが変わった」とは、「状況が良い方向に変わった」ということです。ただし人間とは保守的なもので、「できれば変わりたくない」という思いを抱いています。また「変わりたいけれど変われない」ということもあるでしょう。
しかし、現在の状況をよりよい方向に変えるためには、何かを変えなければならないのです。手をこまぬいていたのでは、状況は変わりません。私たちには自らの意志ですぐに変えられるものが与えられているのです。それは「自分自身と未来」です。もちろん、個人の力で変えられないものもあり、それは受け入れなければなりません。
倫理の実践とは、自らの壁を突き破り、自らがよりよく変わる「自己革新」とイコールです。その実践を促す手段に「倫理指導」があります。「倫理指導」は倫理法人会会員であれば、有資格者に無料で受けられます。
企業運営の問題、夫婦・後継者をはじめとする人間関係など、経営者は人に言えない悩みが積み重なったり、突然の苦難に見舞われたりすることがあります。それによって平常心を失い、ともすると判断や対応を誤って深みに陥る場合があります。もちろん「倫理指導」を受けただけでは状況は変わりません。その後の実践が重要であることは当然です。
K氏の経営する建設会社の従業員が、ある事故を起こした時のことです。K氏は忙しさもあって、ただ慌てふためくばかりでした。その時、〈そうだ、倫理指導を受けよう〉と思い立ち、さっそく指導を受けたのです。
その際、「現実をしっかりと受け止めて対処するように。絶対に逃げるな」と言われたのです。当のK氏は、実は逃げ出したかったといいます。「逃げ出したいのに加えて、この責任をうまく誰かに押しつけられないだろうかと、それしか考えていなかった」といいます。
しかし倫理指導によって、「よし、現実を真正面から受け止めて対応しよう」と決心したのです。K氏が自分の弱さを知り、変わった瞬間でした。その後、必死の実践により状況は好転していったそうです。
人は順調に物事が運んだり、ある程度の成功を収めたりすると、いつまでもそれを享受したいと思うものです。現状に安住してしまえば、そこから先の向上はありません。苦難や悩み、高い目標が刺激となり、乗り切るための反省や工夫を促すことで、秘められた力が発揮されるものです。苦難は自らが変わり、そして運命を変える「鍵」なのです。