「私の不徳の致すところです…」とは、企業や組織で起こった事故や事件、また不祥事などが起こった際に、当該企業の経営陣やその組織のトップが謝罪する場面でよく使われる常套句です。
確かに「組織は一人の人間の長い影にほかならない」という言葉に象徴されるように、経営者自身は直接的に携わらなくとも、部下や従業員の故意・過失にかかわらず「結果に対して責任を持つ」という気概は、トップの覚悟として大切な要件の一つです。
また逆に、良い結果が出た時に、それを「私の人徳ですよ」などと吹聴したりしないことも、望まれるトップの良き姿勢です。
ある結果を招いた一つの要因として、物質的には捉えることのできないトップ個人の「徳」に着目することは、非常に日本的な考え方だといえるでしょう。
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現在、ある意味で社会現象にもなっているAKB48。その「第4回AKB選抜総選挙」で上位にランクインした各メンバーが、ファンや支えてくれた人たちへの感謝の気持ちや胸の内を吐露しています。
彼女たちの中心的存在である高橋みなみさんは、「努力は必ずしも報われるものではないと言う人がいますが、私は努力しなければ何も始まらないと思います」と、目標へ向かって努力を惜しまないことの大切さを、周囲への感謝の気持ちと共に力説しました。お互いが切磋琢磨しつつ、組織の向かうべき方向を明確に訴えるスピーチといえるでしょう。
この言葉を裏付けるように、メンバーたちの彼女に対する信頼は絶大で、プロデューサーの秋元康氏をして「高橋はAKB48の顔」「AKB48とは高橋みなみのことである」と言わしめるほどです。
第一期生としてメンバー入りした彼女は、まったくのマイナーな時代からトレーニングでは先頭に立って声を出していました。練習についていけない後輩に最後まで付き合うなど、周囲の信頼を集める彼女の姿がそこにはあり、現在も彼女の後姿に引っ張られるメンバーは多いようです。
我が倫理法人会にも同様の方はいます。会員A氏は、日本創生を目指す倫理運動に心底共感し、倫理運動の創始者・丸山敏雄の墓所に毎日のように参拝しています。百回・千回という節目には、自宅から何時間もかけて徒歩で向かうという徹底ぶりです。
自らの日常をチェックしつつ、今後の指針を得ようと常に心がけ、行動において周囲と比して抜きん出た実践ぶりであっても、一切そのことを吹聴しません。このA氏の語録をチェックし、手帳にメモをして、自己を奮起させるツールとして活用している経営者もいるほどです。
「徳」には限りなきパワーが存します。その人の発する言動に説得力を持たせ、その説得力に裏打ちされた偉大な力が、周囲の人を動かすものなのです。