世の中には、経営者に関する教えが数多くありま
す。私たちの学ぶ倫理では、人としての「ものの見
方・考え方」を学び、そして実践しています。
その中の一つに「人を改めさせよう、変えようと
する前に、まず自ら改め、自分が変ればよい」とい
う項目があります。
例えば、社員がお客様とトラブルを起こしたとし
ます。その場合、社員を教育・指導し、再発防止に
努めるのは当然であり常識ですが、倫理ではさらに
一歩突っ込んで、「身の回りに起こる全責任は経営
者である自分にある」と見て、自分の行ないや心を
見直すきっかけとするのです。
ある建設会社は、住宅販売を中心に毎年売り上げ
を伸ばし続けている優良企業です。しかし以前は今
日のような経営状態ではなく、いつ倒産するかどう
かの瀬戸際に立たされていた時期がありました。
会社がガタガタしていた原因は、社長と専務の不
仲にありました。父親から譲り受けた会社を、社長
を兄、専務を弟が継ぎました。不仲になったきっか
けは、専務である弟の酒乱でした。
初めて兄弟で酒を酌み交わした日のこと。だんだ
んと弟の目が据わり始めました。そして突然、社長
である兄に仕事や家庭のことで愚痴を言い始めた
のです。兄は適度に受け流していましたが、次第に
口だけではなく手を出し始めたのです。
怒り心頭に達した兄は、家族の前で弟と大喧嘩を
しました。それからというもの、親族が集まるたび
に、いつも弟の酒乱で揉めることが多くなったので
す。見かねた兄は再三、弟に酒を止めるよう忠告す
るのですが、いっこうにその気配はありません。
ある日、取引先との宴席があり、兄は弟に代理と
して出席させました。その翌日、取引先の社長から
強い怒りの電話がかかってきました。宴席で弟が社
長に絡み、大喧嘩になったというのです。兄はすぐ
に弟を呼び出して取引先にお詫びに行きましたが、
先方の社長は腹の虫が収まらず、結局、以後の取引
きは解消となってしまったのです。
会社にとっては大口の取引先であったため、それ
以来、兄は弟を責め続け、兄弟の仲はさらに悪くな
り、社内で口もきかなくなっていきました。
そんな中、兄が出席した宴席で、弟と同じように
酒乱の人が仕事上のことで絡んできたのです。なん
とか我慢はしつつも怒りが収まらずにいたところ、
周囲が「あの人の家庭は複雑なんだよ。あの人も被
害者だから許してほしい」というのです。
その瞬間、兄は弟のことを思い出しました。実は、
祖父・叔父と酒癖が悪く、代々にわたり酒乱が出て
いる家系だったです。
「弟は家系という流れの中で、負の遺産を引き継い
でいたんだ。もちろん弟は好きで引き継いだわけで
はない」と気づいた兄は、すぐさま弟に詫びを入れ、
責め心を持っていた自分の考えを改めたのです。
その後、弟は不思議なことに、どんなに酒を飲ん
でも愚痴を言わなくなり、暴力も振るわなくなった
のです。それどころか、社長である兄を慕い、仕事
も率先してこなすようになり、現在の繁栄を築く原
動力となったのです。
「他人と過去は変えられないが、自分と未来は変え
られる」という言葉があります。身の回りに起こる
ことを自身の成長の糧として捉えた時、人生観は大
きく変化します。
あれが悪い、これが悪いと人を責める気持ちを捨
て、身の回りに起こることすべてに感謝の心を持っ
て自分を変えていく努力をしていきたいものです。