ノーベル賞受賞や国民栄誉賞の受賞など、日本に明るい話題が続いています。これらの受賞者に共通するのは、いずれも弛まぬ努力が大きな功績として称えられている点です。しかし功績のみならず、奇蹟的な体験や境遇もまた、日々の積み重ねの成果として発揮されるケースがあるのです。
経営者のО氏夫妻は、休日に一緒にバイクで出かけるなど、周囲からはおしどり夫婦と呼ばれる仲の良さです。そんな夫妻が、三重県の伊勢神宮へバイクで出かけた時のことです。高速道路をスピードを上げて走行していたところ、突如として大型トラックが車線変更してきたのです。
О氏は咄嗟に中央分離帯付近へ乗り上げ、なんとかハンドルを持ち堪えました。トラックが過ぎ去り、車線へ戻ると、ハンドルの利かないバイクはすぐに横転し、О氏は道路に飛び出て転がり、夫人も道路へ滑り込むような形で倒れたのです。
道路上に倒れているО氏を見た夫人は、一瞬「死」という思いがよぎりました。しかし次の瞬間、氏は何とか起き上がったのです。そして座り込んでいる夫人に、「怖い思いをさせてごめんね」と言葉をかけ、すぐに事故の処理にあたったのです。
奇跡的に後続の車は来ず、またО氏の柔道の経験も幸いし、ライダースーツはボロボロになったものの、腕の擦り傷だけで済みました。病院に搬送された後も、数十分で治療は終わりました。バッグの中に持参していたスーツに着替え、夫人に「じゃあ伊勢神宮に行こうか」と言ってレンタカーを借りたのです。
そして何事もなかったかのように翌朝、御垣内参拝を行なった後に帰宅しました。
後日、事故を振り返った氏は、「初めての事故でしたが、冷静でした」とし、自身の心境を淡々と語りました。
「トラックを責める気はありません。自分は事故を起こさないものだと、いい気になっていたんです。日頃、妻に心配ばかりかけていたことも改めて気づかされました」
О氏は毎朝三時に起床する朝起きの実践と、夫婦で正座し、名前を呼び合い、握手を交わすなどの朝の挨拶をしています。
朝起き一つですが、О氏自身の揺るぎない心境を培い、事故に遭った際の冷静な対処へとつながったのでしょう。夫婦のつながりを大切にしていることも、命のつながりを堅く結んだ要因かもしれません。
倫理研究所・丸山竹秋会長は次のように語ります。
毎日一回でも小さな「よいこと」をやっていると、いざという時に大きな「よいこと」ができる。平生行なわずして、どうしていざという時にできるものか。ここに日に一度が大きな意味をもってくるのであり、終始一貫のたゆみなき実践によって、重大な場面に遭遇した時、難しいことが奇跡的にもやってのけられる。
日々の積み重ねが運命を切り拓きます。誰しもその人生において、いずれは重大な場面がやってくるものです。「ここぞ」という場面に力を発揮できるよう、日々の実践に磨きをかけ、揺るぎない信念を培いたいものです。