慶応義塾大学の小林良樹教授(国際関係論・社会安全政策)は、東日本大震災の影響による福島第一原発事故関連の調査を行ないました。
原子炉建屋の爆発直後に住民の救出や避難誘導に当たった福島県警の警察官125人の68%は死の恐怖を感じ、41%は任務の放棄も考えていたことがわかりました。
任務放棄を考えたのは、「自分や家族の安全を心配したため」というのが、そのほとんどの理由でした。ただし実際に現場を離れた警察官はいませんでした。
小林教授は「日頃から良好だった職場の人間関係が、連帯感や使命感を生む土壌になった」と分析しています。「警察は逃げるわけにはいかない。覚悟してくれ」「最後まで務めを果たすぞ」など、幹部の指示や励ましも心の支えになったともいいます。
私たちの職場においてはどうでしょうか。従業員による事故や取引先の倒産など、突然のトラブルに巻き込まれ、窮地に立たされることがあるかもしれません。不測の事態が生じた際に、どういった対処がとれるかは、普段、仲間とどのように付き合っているかにかかっていると言えましょう。
「阿吽の呼吸」「以心伝心」など、日本では言葉はなくとも心が通じ合う関係があるとされます。しかし、普段から自分の気持ちを伝える習慣がなければ、相手とのコミュニケーションを維持することはできません。
職場において、チームワークを良いものへと向上させるには、いくつかポイントがあります。その一つは、相手の美点を見つけ、それを伝える習慣をつけることです。
米国の大実業家で、多くの自己啓発書を著したデール・カーネギーは、「自己重要感を与えることが、人を動かす不滅の法則である」と述べています。「私たちは相手に自分のことをもっと深く知ってほしいと願っている」という意味です。
「君は本当によく仕事をしてくれるね」など、相手から自分へ理解を示されることは、誰もが望むことでしょう。表向きはそうしたことを口に出さない人でも、心の奥底では自尊心の充足を求めているものです。
また、人に対して改善点を指摘する場合でも、ちょっとした工夫をするだけで、より良い人間関係を築くことにつながります。それは「どういうタイミングで、どのような表現で伝えるか」という工夫です。
急に予定外の仕事を頼まれた時に、「次からはもっと早く言ってくれないと困る」と感じたとしても、そのままストレートに言うのでなく、「前倒しで予定を教えてもらえると助かります」と明るく肯定的な表現のほうが、両者の関係をこじらせずにすみます。
言葉というものは、使いようによっては相手を傷つける刃にもなりかねませんし、逆に少々の工夫をするだけで、絆を強くする金の糸にもなります。
力強いチームワークで仕事にあたれるようになるためにも、普段から相手への理解を深めていきたいものです。前向きな言葉によるコミュニケーションが自然と滲み出るよう心がけていきましょう。