頭でただ思っていることと、
実行することは違います。私たちの日常でも、〈よくわかっている〉〈自分には必要なことだ〉と頭で理解していても、なかなか実践できずに足踏みをしていることは多いのではないでしょうか。
たとえば「経営者モーニングセミナー」での気づきです。『万人幸福の栞』を輪読したり、会長挨拶、会員のスピーチ、講話と続く約一時間の中で、自分にあてはめて〈これは重要だ〉と認識しても、一歩会場から離れると、なかなか行動に移せないものです。
理由の一つとして、早朝から勉強し、知識を得たことで、〈自分はよくわかっている〉〈他者よりも優れている〉という傲慢さが芽生え、実際にやったような錯覚に陥ってしまうのかもしれません。
たとえ知識を得ても、実践実行しなければ、よい結果は現われません。『万人幸福の栞』の前文にはこう記してあります。
すべて無条件に、このまま実行していただきたい。そこには
必ず新しいよい結果が現れます。
思いもよらぬ幸福な環境が開けてまいります。
「実践する」とは、新しい気づきを実行に移すこと、日々進むこと。理屈などなく、そのまま無条件に行なってこそ、私たちの心に巣くう「傲慢さ」は払拭されて、「謙虚な心」へと昇華されます。
監督者として自動車部品工場に勤めていたK氏は、工場の閉鎖が決定し、他県への転勤を勧められました。氏の長男はまだ高校生です。家族のことを考えて、K氏は早期退職を決めました。
新しい職場を求めてハローワークへ赴くと、若者で大混雑しています。自分の能力には自信があったK氏でしたが、五十七歳という年齢もあって、面接を受けた会社はいずれも不合格でした。
〈無職の自分にできることは何だろう〉と考えた末、K氏の始めた実践は、妻への挨拶でした。
家族と過ごす時間が増えた分、仕事が決まらない苛立ちをつい妻にぶつけてしまいがちだったK氏。
〈仕事はなくても、挨拶はできる〉と実践を決意したのです。
長年連れ添った妻に、改まって挨拶をするのは照れくささもありました。それでも、「今日一日よろしくお願いします」と頭を下げると、〈本当にそうだな、今日一日妻の世話になるんだな>と、謙虚な気持ちが湧いてきます。会社勤めの頃にはなかった感情でした。
K氏は、挨拶の実践とともに、日々接する人の言葉に耳を傾け、「はい」と受け止める実践にも挑戦しました。やがて、ある会社の面接で「はい、喜んでやります!」と即答した返事が好印象となって、再就職が決まったのです。
〈今の自分にできることは何だろう〉という問いは、日常に多くあります。この時がチャンスです。問いかけから得た「気づき」を逃さず、まずやってみましょう。実行に移してみましょう。
日々の実践を継続することで、謙虚な心が養われ、新しい環境が開けてきます。足元の実践から、幸福への扉は開くのです。