えらぶるはバカのはじまり

あるプロゴルファーの話です。
アマチュア時代、ゴルフの大会出場を目指し、予選会に参加したのですが、力を発揮できず、予選落ちとなってしまいました。
終了後、本来ならいち早く会場を後にしたいところですが、彼は、大会関係者一人ひとりに深々とお辞儀をして、お礼の挨拶をしてまわったそうです。
その光景を遠目で見ていた関係者が、こう声をかけてきました。
「明日まで試合会場で待ってみませんか。万が一欠場者が出たら、優先的に繰り上げ出場できるようにします。可能性は低いのですが」
その話を聞き、彼は会場で待つことにしました。すると翌朝、「出場予定の選手一人が欠場することになり、繰り上げで出場できます」と、連絡が入ったのです。
この試合は彼――石川遼選手にとって、記念すべきものになりました。大会最終日の終盤に奇跡のショットもあり、プロを相手に、アマチュアとして初優勝を勝ち取ったのです。幼い頃から身についていた周囲への気配りと、謙虚な姿勢が、思いがけないチャンスをたぐり寄せたのでした。
その後、石川選手はプロに進み、現在はアメリカでより高いレベルに挑みながら、日本を代表するプロゴルファーとして活躍を続けています。常に低姿勢で、気配りのある振る舞いには、プロとして成功をした今も、ゴルフ業界で定評があります。
練習、試合を問わず、プレーが終了すれば、コースに深々とお辞儀をし、トイレでは備えつきのタオルですべての洗面台をきれいに拭いてから出てくるそうです。
実力第一のプロスポーツの世界ですが、人や物に対しての謙虚さが運を引き寄せ、周囲への感謝や心配りが、多くの人から協力を得ることにつながるのでしょう。
反対に、勝ち続けるうちに感覚が麻痺して、知らず知らずのうちに傲慢になり、長年支えてくれた協力者や応援者が去ってしまう、というケースもあります。
「実るほど頭を垂れる稲穂かな」
ということわざがありますが、地位が上がり、権威を有するほど謙虚であるべきだ、という教訓がそこには込められています。
経営者においても同じでしょう。相手がいくら大きな成功をおさめていても、態度が傲慢であれば協力したくなくなり、反対に、常に謙虚な人には協力の手を差し伸べたくなるのが、人間の素直な心持ちではないでしょうか。
「えらぶるはバカのはじまり」
 自分でえらぶっても、えらくなるものではない。人からバカにされても、自分でバカにならねば、バカになるものでもない。
えらぶれば、教わることはおぼえず、せっかく進んでいても、パッタリ止まってしまう。そして、人にいやがられ、バカにされる。
えらぶるその時から、バカになり始める。
「倫理かるた」より(丸山敏雄全集 第二十四巻・上)
家庭、職場においても、日々謙虚さを忘れず、周囲への心配りを忘れずにいたいものです。