身近な物や道具に心を通わせましょう

私たちは多くの物や道具に囲まれて生活をしています。日々の生活を助け、仕事を助けてくれる「物」に対して、どのような心持ちで接しているでしょうか?
工務店を営んでいるN氏は、自分が使う物や道具の手入れを欠かしません。仕事前には故障が無いか入念にチェックし、「今日一日お願いします」と語りかけて仕事に取り掛かります。仕事が終われば「今日一日ありがとうございました」と言いながら、道具の手入れをし、元の位置に戻す等、後始末を徹底しています。
しかし、以前はそうではなかったとN氏はいいます。「切断機の調子が悪い」とぼやいては、粗末に扱い、ノコギリやドライバーもメンテナンスをしないため、すぐに錆びついてしまいます。
その結果、仕事が遅れがちになり、工期にも間に合わず、工務店の評判は一気に落ちていったのです。
仕事が減るにしたがって、イライラすることが増え、物に八つ当たりするようになりました。切断された破片が飛んできて体に当たるなど、怪我が頻発するようにもなりました。その度に仕事を休むことになり、悪循環に陥いってしまったのです。
〈このままでは仕事がなくなるかもしれない〉と危機感を募らせたN氏は、ある朝のモーニングセミナー終了後、倫理指導を受けることにしました。これまでの経緯を伝えると、講師に「あなたは物や道具を大切にしていませんね」とズバリと指摘され、N氏はドキッとしました。
講師からのアドバイスは「物を大切に扱うこと」「後始末の徹底」の二点でした。
〈こんなことで経営状況が良くなるのか〉と半信半疑ながらも、使用前使用後に道具の点検をすると故障が減っていきました。道具の調子が良くなり、自身のイライラやあせりがなくなって、納期内に仕上げることはもちろん、仕事も丁寧になりました。業績も次第に回復していきました。
N氏は実践を通して、これまで物や道具に心を通わせていなかったことを反省し、人と接するのと同じように労わりを持って物を扱おうと決意しました。 
倫理運動の創始者・丸山敏雄は物にも心があり、人と同じように物に接することが大切であると述べています。では、具体的にはどのような心持ちで接すればよいのでしょうか。それには以下のような心がけが必要です。
①喜んで受ける ②心をこめて大切に扱う
③物の由来を知る ④その物の良さを知る
⑤礼をつくす ⑥十分にはたらかす
⑦管理を十分にする ⑧死蔵しない
⑨後始末をする
『倫理経営のすすめ』
仕事や生活を助けてくれる物や道具に対して感謝するとともに、心の豊かさを身につけていきたいものです。