不必要な物を捨てることができずに、物に囲まれて仕事をしている人は、意外と多いのではないでしょうか。
次の短歌は、倫理研究所の創立者・丸山敏雄が弟子の一人に贈ったものです。
すてにすて すてて又すて すててこそ
まことの我は あらはれるとしれ
Aさんは以前、不必要な物を捨てることができずにいました。さらには整理整頓も苦手でした。ある日の経営者セミナーで、様々な物を捨てた経営者の体験談を聞きました。そこで「まず捨てる実践を始めよう」と決意したのです。
一日目は、自分の身近な物を捨てることにしました。はじめは、自室の書斎からです。Aさんは経営者という立場から、多くの本を読みます。本は情報を仕入れるツールですが、その時代が過ぎれば情報は古くなります。もちろん「座右の書」のような一生、傍らに置いて何かあった時に開く本もあるでしょう。しかしそれ以外の本は思い切って処分することにしました。そうして不要になった本の中には書店で購入し、まったく読まずにいたものもあり、結局三分の二の本を処分することになったのです。
次は、クローゼットやタンス等に入りきらないほどの衣服です。その多くは、体型の変化により、着ることができなくなってしまったものです。「あと三キロ痩せれば…」そう思いつつ、捨てることを躊躇していた衣服は、いつまで経ってもその日は訪れませんでした。体型回復を待たずして、着る機会のない衣服を半分以上処分しました。
二日目は、会社の机や書棚に乱立する書類の処分です。会議の議事録、新聞のスクラップなどの資料や原稿、半年間、目にしていない書類はすべて処分しました。
二日間を通じて、Aさんは、今まで物を捨てられなかった理由がわかりました。
整理整頓をする際、捨てる物と残す物を分類します。しかし双方に該当しない物があったのです。つまり、分類しようとしても捨てるか残すかの判断がつかない物です。これらの物が、捨てることが出来ずに、会社の自分の机周りを乱している原因だったのです。
以後Aさんは「どうしようか迷った物」もすべて処分することにしたのです。不要な物を処分した時、残された物は、本当に必要な物だけであることにAさんは気づきました。
ほんとうは、人間は無くなるようなものなんか、もっていないのである。なくしたように見えるのは、実は自分の本当の姿に返ったのであり、ほんとうの自分の真面目に返ったのだから、それが、うそのない自分である。 (『歓喜の人生』)
物を捨てるという行為は、執着する心、捉われる心を捨てることです。冒頭の短歌のように、捨てて捨てきった時、本当の自分自身が現われるものです。
今一度、自分の周囲を見回してみましょう。不必要な物を思い切って捨てることが、真の自分への第一歩と心しましょう。