川口雅昭氏編 致知出版
『吉田松陰一日一言』
―魂を鼓舞する感奮語録―
「武士たる者は」
敬は乃ち備なり。武士道には是れを覚悟と云ふ。論語に「門を出でては大賓を見るが如し」と云ふ。是れ敬を説くなり。※呉子に「門を出づるより敵を見るが如くす」と云ふ。是れ備を説くなり。竝びに皆覚悟の道なり。敬・備は怠の反対にて、怠は即ち油断なり。武士たる者は行住坐臥常に覚悟ありて油断なき如くすべしとなり。 安政3年8月以降「武教全書講録」
【訳】
敬うとは備えることである。武士道ではこれを覚悟という。『論語』に、「わが家の門を出て他人に接する時には、高貴の客人を見る時のように敬しみなさい」という。これが敬を説いている。『呉子』に、「門を出た時から、敵を見るようにしなさい」という。これは備えを説いている。共に、覚悟のあり方である。敬うことと備えることは怠るということの反対であり、怠るとは、つまり油断である。武士というものは、日常の起居動作において、常に覚悟をし、油断のないようにすべきである、ということである。
※中国の春秋戦国時代に著されたとされる兵法書。『孫子』と並び称される。