『吉田松陰一日一言』

川口雅昭氏編  致知出版

『吉田松陰一日一言』

―魂を鼓舞する感奮語録―

6月5日 「斯道の塞がる所以」

 

近時、風俗澆薄にして教化陵遅し、書を読む人は天下に満つれども、道を求むる者は絶えてなくして僅かにあり。而して其の自ら是とし自ら高ぶり、先知は已に肯へて後知を覚さず、後覚も亦肯へて先覚を師とせず。是れ斯道の塞がる所以にして、志士の憂ふる所以なり。  安政2年9月18日「※太華山縣先生に与へて講孟劄記の評を乞ふ書」

【訳】

この頃は、風俗が軽薄になり、(後進を)教え導いて善に向かわせる、という風潮が次第に衰えている。本を読む人は多いけれども、人としての道を求めるものはおらず、いたとしてもわずかでしかない。そして、人々は自分の現状に満足し、尊大になり、先知、つまり悟っている人は後知、まだ悟っていない人を指導しようとせず、また、後知も先知を師としない。これこそが、人の人たる道が行き詰まる理由であり、心ある立派な人が憂えている理由である。

※山縣太華。長州藩藩校明倫館の学頭。