人は誰でも、平等に二十四時
間という時間を与えられています。この時間を、どのように使おうが自由です。
しかし、時間の使い方は、仕事に、人生に、大きな影響を及ぼします。
ビルメンテナンス業を営むY社長は、始業時間よりかなり早く出社し、社内外の清掃を行なうのが日課です。特に、自社前の公道の清掃は念入りに行ないます。
「朝は絶好のシンキングタイム(思考時間)です。早朝、時間を決めて清掃していると、いろいろなことに気づきます」と語るように、これまでも朝の清掃中、多くの気づきがあったそうです。
たとえばある年の夏、公道のプラタナスの木の皮が剥げ落ちているのを見て、〈植物も暑くなると、人間と同じように衣服を薄くしたり、脱いだりするんだな。わが社にも、余分な出費があるのではないか〉と思い、帳簿を整理してみました。すると、不要な出費があることがわかり、改善して、必要
経費の削減に成功したのです。
建設業を営むI社長も、Y社長同様、朝の清掃を欠かしません。社員や職人さんが来る前に出勤し、事務所内と、資材置場のトイレを清掃しています。
ある日のことです。資材置場のトイレを掃除しようと、扉を開いた途端、鼻を突くような異臭がありました。トイレの床には嘔吐の後があったのです。
〈こんな所に吐いたのは誰だ〉と一瞬思いましたが、〈待てよ、昨日は上棟式に現場監督が出向いて行ったな〉と、昨晩のことを思い出したのです。
自社近くの現場で行なわれた上棟式には、当初I社長が出る予定でした。ところが急用が入り、急遽、現場監督が社長の代理として参加したのです。
上棟式では、お祝いとして、宴席が設けられることがあります。現場監督は、お酒が飲めない体質でした。おそらく大切なお客様からお酒を勧められて、断ることができなかったのでしょう。会社まで帰りつき、トイレに駆け込んだものの、我慢できずに嘔吐してしまったのかもしれません。
〈会社のために、飲めない酒を無理して飲ませて本当にすまなかった〉と思うと同時に、I社長は、両手で、その汚物を処理しました。社員や職人のお陰で、会社が成り立っていることを体で感じ、感謝の念がさらに深まった、と後に述懐しています。
朝を制する者は人生を制する。
一日を制する者は一年を制する。一年を制する者は一生を制する。
という言葉があります。「朝活」という言葉がブームになりましたが、誰でも等しく与えられている二十四時間の中でも、とりわけ朝の活用が、大きな影響力を持つものです。掃除に限らず、一日のスタートである早朝を有効に使うことで、仕事に、人生に大きな喜びを得ることができるでしょう。
「先んずれば人を制す。先手は勝つ手。早い出発、これは成功の第一条件である」(丸山敏雄著『自分経営の心得』より)。