川口雅昭氏編 致知出版
『吉田松陰一日一言』
―魂を鼓舞する感奮語録―
9月3日 「天下一人の吾れを信ずるものなきも」
天照豈に霊なからんや。先公豈に神なからんや。霊神蓋し謂ふに、吾が誠未だ至らず、姑く吾れに戯むるるに艱難を以てし、吾れを欺くに挫折を以てするか。天下一人の吾れを信ずるものなきも、吾れに於ては毫も心を動かすに足るものなし、独り天照・先公の棄つる所となるは、吾れ其れ勝ふべけんや。 安政6年3月23日「※和作に与ふ」
【訳】
天照大神にどうして霊魂がないであろうか。必ずある。これまでの歴代藩主にどうして神霊がないであろうか。必ずある。思うに、私の誠が足りないから、それらの霊魂はしばらく私に辛い苦しみを与え、また私の思いをくじくのであろうか。この天下に一人も私を信じてくれるものがいないとしても、私にとっていささかも心を動かすものではない。ただ、天照大神や歴代藩主の霊魂に見捨てられたら、私はどうしてそれに耐えることができようか。できはしない。
※和作は入江杉蔵の実弟であり、松陰の高弟である野村和作。後の子爵 野村靖。