『吉田松陰一日一言』

川口雅昭氏編  致知出版
『吉田松陰一日一言』
―魂を鼓舞する感奮語録―

12月15日 「雪中の松柏愈々青々たり」②

人才も亦然り。少年軽鋭、鬱蒼喜ぶべき者甚だ衆し。然れども艱難辛苦を経るに従ひ、
英気頽敗して一俗物となる者少なからず。唯だ真の志士は此の処に於て愈々激昂して、
遂に才を成すなり。故に霜雪は桃李の凋む所以なり。艱苦は軽鋭の頽るる所以、
即ち志士の激する所以なりとあり。大意斯くの如し。今吾れ不才と云へども象
山の徒として、亦徐氏の文を読む。豈に桃李に伍して松柏に咲はれんや。
当に琢磨啐励して連城・干将となるべきのみ。 
安政3年4月15日「講孟剳記」

【訳】

人間の才能もまた同じことである。少年の中には、すばしっこくて強く、気も満ちており、
喜ぶべきものは大変多い。しかしながら、辛いことや困難なことを経験するにつれ、
そのようなすばらしさがなくなってしまい、全くだめな人間になってしまうのも少なくない。
ただ、本当に大きな志をもっている人は、このような状態になったら、
ますます気持ちを奮い立たせ、ついにはもって生まれた才能を完成させるのである。
とすれば、霜雪は桃李が枯れる原因であり、また、松柏が完成する原因である。
また、艱苦は人の鋭い気性がだめにある原因であり、同時に志のある人が激しく奮い立つ原因なのである、と。
全文を覚えているわけではないが、大体の意味は以上のようであった。
今、私は才能のないものではあるが、佐久間象山先生の教えをいただいたものであり、また、徐氏の文章を読むものである。
どうして、桃李などの仲間になって、松柏に笑われてよかろうか。そんなことではいけない。
まさに我が身を磨き、鍛え上げて、名玉の「連城」や名剣である「干将」のようにならねばならない。