遠い先を見据えて企画・計画を立てることは、企業にとって欠かせないことです。
時代の変化を見越して、さらに自分自身の成長するイメージを重ねながら、
「大きな夢」「高い理想」に向かって走り抜いていけたら、どんなによいでしょう。
とはいえ、頭でわかっていても、実際に行動に移すのは難しいものです。
うまくいくかどうか、この先どうなるかと、先のことを憂えたり、
結果を求め過ぎてばかりいると、逆に身動きが取れなくなることがあります。
「先を見る」といいながら、先のことを考えれば考えるほど暗くなるのでは、
本末転倒でしょう。
このような状態になった時にはむしろ「先を見ない」という判断も必要でしょう。
もちろん、ここでいう「先を見ない」とは、「どうにでもなれ」
と自暴自棄になることを勧めているわけではありません。
まず何よりも、足元をよく見ていただきたいのです。
拠って立つ地盤がしっかりすると、将来のイメージも、
ぼんやりとしたモノクロ映像ではなく、カラーの鮮明な映像でイメージできるようになります。
「先を見る」上においても、まずはしっかり足元を見つめ、地盤を固めていくこと。
その心持ちを一言で言うなら、「今を生きる」ということになるでしょう。
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水道工事会社に勤めるIさんには、例年の業務に、水道メーターの交換があります。
与えられた期間に、各家庭や公共施設を訪問してメーターを交換していく、
単調な作業の繰り返しです。
考えることは、〈ここまで終わったから残りはいくつだ〉と、数のことばかり。
数が減っていくことだけを小さな喜びに、仕事をこなしていました。
しかし、すべて終わっても、後に残るのは、〈やっと終わった〉という実感だけでした。
達成感より、精神的苦痛と肉体的疲労ばかりが後に残るのでした。
Iさんは、仕事そのものに対する喜びよりも、残りわずかになったメーターを見て、
喜びを感じていたのです。それは、仕事本来の目的からは離れたものでしょう。
数をこなすという結果だけに意識が向いていたIさんは、訪問先での挨拶も、
覇気がなく、暗いものでした。
もし、一軒一軒に心を向け、感じのよい明るい挨拶ができていたら、
会社のイメージアップにつながったかもしれません。
また、メーター交換の際に、機器周辺の状況や水道設備全体にも目を配っていれば、
新しい仕事に結びつく何かが見つかっていた可能性もあるでしょう。
今この時、この瞬間の仕事に全力を注ぐこと、日常生活の一瞬に情熱を傾けることが
「今を生きる」ことに他なりません。
その姿勢が「今」を充実させ、結果として、先々の展望を開いていきます。
輝かしい希望を抱いて、揺らぐことなく走り抜いていくためにも、
自分の足元を疎かにせず、「今を生きる」心持ちを貫いてまいりましょう。
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足元を見つめ、足元を固め、遠き未来に夢を描きます。