新聞販売所を営むA婦人が、倫理研究所の研究員に倫理指導を受けました。
内容は、婦人が一万円札を落としてしまったことについてでした。
A婦人は、お札を四つに折り曲げて、直接ズボンのポケットに入れていたそうです。
婦人の話を聞いた研究員は、金銭や物に対する倫理を説明しました。
「純粋倫理では『物は生きている』と捉えます。特に金銭は、物の中でも、
最も敏感な生き物です。お札をポケットに裸で入れていること自体、
無造作に扱っている証拠でしょう。金銭をはじめ、物は生きているのですから、
自分の子供を慈しむように大切にしなければなりません。
あなたが金銭を粗末に扱っているから、一万円というわが子が、
〈ここにいたくない〉と思って、あなたから逃げていったのですよ」
続けて研究員は尋ねました。
「ところで、自宅の台所の流し台の一番上の引き出しには何が入っていますか」
「…はっきりとわかりません」
「恐らくそうでしょう。台所は日々の生活を営む上で、家族の命を支える大切な場所です。
その台所の引き出しに何が入っているかわからないとすれば、お店や自宅にある物も、
あまり整理されていないのかもしれません。物に対する心構えを反省して、
今日からすべての物に感謝し、わが子のように愛し、慈しんでください」
指導を受け、〈本当にその通りだ〉と痛感したA婦人。家に帰るとすぐに、
流し台の引き出しを開けて中を確かめてみました。
すると、使いかけの調味料や買い置きをしていた台所用品の下から、
一円玉や五円玉、十円玉が何枚も出てきたのです。
引き出しの中の小銭を拾い集めながら、A婦人は、
〈こんな状態だから一万円札もなくなったんだ〉と、
物を乱雑に扱っていたことを心の底から反省しました。
そして、〈今日から家と店の中を一日一カ所整理しよう。
お世話になっている多くの物に対して、ありがとうという感謝の気持ちで使っていこう〉
と誓ったのです。
その日の夕方、A婦人に驚くべきことが起こりました。交番から連絡があり、
一万円札の落とし物が届けられたというのです。
実はA婦人、倫理指導を受ける前に、交番にお金を落としたことを届けていたのです。
交番に届けられたのは、紛れもなくA婦人が落とした四つ折のお札でした。
お金は、足が生えているように行ったり来たりすることから、昔から「足」にたとえられます。
足に接頭語の「お」が付いて「お足」という女房詞もあります。
粗末に扱うと、それこそ足が生えたように逃げていくのが金銭の性質です。
また、物に対する心を改め、実践に移したことから、
〈そろそろ帰ろうか〉とお金に足が生えて、婦人の元に戻ってきたのかもしれません。
この体験から、お金の扱い方が変わったA婦人です。
引き出しの中や店内も整理整頓され、仕事もぐんと捗るようになりました。
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10代の頃は、二つ折りの財布をお尻のポケットに入れていたりしました。
友人から、お金をお尻に敷くのは良くないと聞き、
また財布も少し良いものと教えて頂き、
お金は大事に使っています。