安岡正篤 一日一言
心を養い、生を養う
10月16日
さむらい
さむらいとは、より偉大なるものへの敬侍である。
この偉大なるものに敬侍し、没我になって生きるところに、
功利の世界、物資の生活から、忽然として道徳の世界、
精神の生活に転生することが出来る。
このゆえに武士は常に如何に生くべきかといわんより、
如何に死すべきかの工夫に生きた。五十年の徒なる生活を犠牲にしても、
尊い感激のある一瞬を欲した。この身命を喜んで擲ちたい事業、
この人の為に死なんと思う知己の君、渾身の熱血を高鳴りせしむべき好敵手、
比等を武士は欲した。
この躍々たる理想精神は凝って所謂武士気質なるものとなり、
頑固とまで考えられる信念、極端とまで驚かれる修練となったのである。